森の童話館「空飛ぶコーギー」

　「グーテン・ターク！あらまあ、丸々と太った美味しそうな犬ね」と、ドイツから来た魔女ゲルラダ・グランヴィルは言いました。「は、初めまして」と、「空飛ぶコーギー」のマロンは、震えながら挨拶しました。「ゲラルダ。ダメよ。マロンが怯えてるじゃあない。マロン安心して。冗談よ」と、キャサリンは言いました。「で、マロンはDFなの？」と、いきなりゲラルダが聞きました。「えっ？」と、マロンは答えに詰まりました。「DFって？」。「決まっているじゃない。フットボールのポジションのことよ。MFかしら？」と、ゲラルダは言いました。「いや、僕はサッカーをしてないし…」。

　「あら？犬がフットボールをしなかったら、誰がするの？ニワトリ？ロバ？ネコ？」と、ゲラルダはキャサリンの方を振り返りながら言いました。「フットボールは足でボールを蹴るスポーツだから、ブレーメンでは、犬だって立派なレギュラーよ」。「ゲラルダ。マロンは、サッカーはしないけど、他の犬にはできないことができるのよ」と、キャサリンがパジャマの袖を捲り上げながら言いました。「分かったわ。マロンは、笛を吹いて、ネズミを集めるのでしょう？ハメルンでは、確かそんな犬がいたと思うけど…」と、ゲラルダが言いました。「僕は、笛も吹けないけど…」と、マロンが小さな声で言いました。「マロンはね。空を飛べるのよ」と、キャサリンが言いました。

　「あら？箒にまたがれば、誰だって空は飛べるでしょう？ドイツでは、ガチョウだって空を飛ぶんだから…」と、ゲラルダは自慢げに言いました。「だって、ガチョウは鳥じゃん。空を飛んでも当たり前」と、マロンは聞こえないような小さな声でつぶやきました。「マロンは、箒を使わずに空を飛ぶのよ」と、キャサリンが言いました。｢それは、ゴブリンかドラゴンでしょう？｣と、ゲラルダが言いました。「マロンは、犬じゃあなくて、ゴブリンなのね？」。「いえ。僕は犬です。ウエルッシュ・コーギーのマロンです」と、マロンは言いました。

　「私はもう472年間も生きているけど、空を飛ぶ犬なんて聞いたことがないわ。きっと、何かの間違いよ。それとも、ヤーパンでは、ダチョウも空を飛ぶの？」と、ゲラルダは言いました。「ダチョウは飛ばないけど、僕は空を飛べるんだ」と、マロンは言いました。「頑張って、頑張って、走って、走って…。やっと、空を飛べるようになったんだ」。「犬が空を飛んでどうするの？」と、ゲラルダが聞きました。「？」「？」。「ヤギが空を飛んだって、空で草は食べられないじゃない。そんなの、ムダよ。私たちは合理主義者だからね」。「僕は、ヤギじゃあないけど…」と、マロンは言いました。「ママに会いたくて、それで頑張って…」。「そんなの、歩いて行けばいいじゃない。ドイツでは、シュヴァルツヴァルトだって、みんな歩くわよ」と、ゲラルダが言いました。

　「ゲラルダ。そう言わずに、マロンを褒めてあげてよ。ママ犬に会いたい一心で、空を飛べるようになったなんて、いい話でしょう？」と、キャサリンが言いました。「分かったわ、キャサリン。あなたが言うなら、それに従うわ。先輩ですもの」と、ゲラルダは言いました。「じゃあ、マロンたちの街を飛びましょう」と、キャサリンが言いました。

　まず、古い箒にまたがったキャサリンが飛び上がりました。次に、新品の箒にまたがったゲルラダ・グランヴィルが飛びました。最後に、マロンの大きな耳が横に広がりました。「それ！」と、マロンの体が宙に浮きました。「ハハハハ！まあ、本当に飛んでるわ！」と、ゲラルダが大げさに驚いてみせました。マロンは、自慢の耳を操って、右に左に自由に舞いました。「マロン、ステキじゃない。あなたを見ていると、ツェッペリンの飛行船を思い出すわ」と、ゲラルダが言いました。「それから、フランクフルトのソーセージもね。そうなの？ヤーパンでは、美味しそうな犬が空を飛ぶのね」。「キャサリンさん。助けて！」と、マロンが悲鳴をあげて、飛んで逃げて行きました。NIPPON！チャチャチャ！