2021年07月07日
ウチワを返して!
小天狗から買った夏の雪だるまが融け始めています。ダンボールいっぱいに詰められていた真冬の風も、いつの間にか空っぽ。「空飛ぶコーギー」のマロンは、小天狗が忘れていったウチワで、雪だるまをあおいでいました。「融けないでね」と、マロンはパタパタとウチワを動かしましたが、雪だるまの顔も体も大汗です。「暑いよ~、暑いよ~」と、今にも崩れそう。そんな時、空から真冬の風が吹き降りて、マロンの前に一本歯の下駄が現れました。「おお、涼しい」。履き手のない下駄は、勝手にカタカタと足踏みをしていました。
「何、これって?」と、マロンはカタカタ鳴る下駄を眺めました。「勝手に足踏みする下駄って、もしかしたら、天狗の下駄かも…?」。マロンの思った通り、下駄を追いかけて、あの小天狗が飛んで来ました。「マロン。あのウチワを返して!」。
「君は誰だっけ?」と、マロンはとぼけました。「何、言ってるの?昨日、真冬の風を売ってあげたじゃん」と、小天狗が言いました。「はて?何でしたっけ?」と、マロンは言いました。「真冬の風?」。「だから、それは、昨日、僕が忘れていったウチワでしょう?」と、小天狗が言いました。「おや、この『ふくろい遠州の花火』のウチワのことかな?」と、マロンが聞きました。「違う、違う。僕が天狗のウチワを忘れて行ったでしょう?」「あそこには、これしか、なかったよ。これだって、涼しい風が来るじゃん」「じゃあ、僕のウチワはどうしちゃったの?」と、小天狗が泣き出しそうな顔で言いました。「手に持ってるじゃん」と、マロンが言いました。「これは、パパのウチワを黙って借りて来ちゃったんだ。見つかったら、叱られちゃう」。「昨日、空に飛び上がるときに、手に持っていたよ」と、マロンが教えてあげました。「あの後、どこに行ったの?」。
小天狗は、マロンから逃げた後のことを思い出してみました。「あれから、確か雲の上に舞い上がって、カミナリさまのところに遊びに行って…」と、小天狗が言いました。「じゃあ、カミナリさまのところに忘れたんじゃあないの?」と、マロンが言いました。「そうかなあ?覚えていないんだよな」。「僕も行ってあげるよ」と、マロンが先に飛び上がりました。小天狗も大天狗のウチワを一あおぎして、後を追いました。
「カミナリさま。昨日、小天狗くんがウチワを忘れていきませんでしたか?」と、マロンが聞いてみました。カミナリさまの子どもたちが、手に手にウチワを持ってゾロゾロと出てきました。「お願い。僕のウチワを返して!」と、小天狗が言いました。「子どもたちが持っているのは、みんな『ふくろい遠州の花火』のウチワだよ。小天狗くんは、昨日、ウチワを持って飛んでいったよ。あの後、どこに行ったの?」と、カミナリさまが聞きました。「あの後、もしかしたら、魔女のキャサリンさんの森に行ったような気が…」と、小天狗が言いました。「本当に、思い出せないんだ」。「じゃあ、キャサリンさんのところに行ってみよう」と、マロンと小天狗は一緒に空を飛びました。
「キャサリンさん!」と、マロンが先に着きました。「まあ、マロン。暑いわねえ」と、キャサリンはパジャマのままで出てきました。手には大きなウチワを持っています。「キャサリンさん。そのウチワって、もしかしたら、天狗のウチワ?」と、マロンが聞きました。「そうよ。昨日、そこの小天狗くんと交換したのよね?」と、キャサリンが言いました。「ほら、『ふくろい遠州の花火』のウチワと交換したじゃない」。「僕、もう思い出せないよ」と、小天狗がとうとうべそをかき始めました。「でも、あのウチワでちゃんと飛べてたわよ」。
「まあ、そう言わずに返してあげてよ」と、マロンがウチワであおぎながら言いました。「マロンこそ返してあげたら」と、キャサリンが言いました。「これは、天狗のウチワじゃあないもん。涼しいけど…」「ほら、ごらん。涼しければ、天狗のウチワでしょう?」「キャサリンさん。大人気ないよ」「子どもで結構!」と、キャサリンが言い張り、「ワーン!」と、小天狗の泣き声が誰も知らない森の奥の奥に響きました。
「はい、はい。返します。返します」と、キャサリンが天狗のウチワを小天狗に返しました。今泣いたばかりの天狗に笑顔が戻りました。「ああ、良かった!じゃあ、僕、帰る!」と、小天狗がウチワを一あおぎ。たちまち、空へと舞い上がりました。「良かったね」と、マロンが言いました。「そうかしら?」とキャサリンが首をかしげました。「あの子は、大天狗のウチワを忘れて行っちゃったよ」。「もう、忘れっぽいんだから」と、マロンが言いました。「じゃあ、僕が届けてあげる」。マロンは大天狗のウチワを口にくわえて、『ふくろい遠州の花火』のウチワで一あおぎ。「小天狗く~ん」と、後を追って空を飛びました。「ウチワを忘れてるよ~」。
「何、これって?」と、マロンはカタカタ鳴る下駄を眺めました。「勝手に足踏みする下駄って、もしかしたら、天狗の下駄かも…?」。マロンの思った通り、下駄を追いかけて、あの小天狗が飛んで来ました。「マロン。あのウチワを返して!」。
「君は誰だっけ?」と、マロンはとぼけました。「何、言ってるの?昨日、真冬の風を売ってあげたじゃん」と、小天狗が言いました。「はて?何でしたっけ?」と、マロンは言いました。「真冬の風?」。「だから、それは、昨日、僕が忘れていったウチワでしょう?」と、小天狗が言いました。「おや、この『ふくろい遠州の花火』のウチワのことかな?」と、マロンが聞きました。「違う、違う。僕が天狗のウチワを忘れて行ったでしょう?」「あそこには、これしか、なかったよ。これだって、涼しい風が来るじゃん」「じゃあ、僕のウチワはどうしちゃったの?」と、小天狗が泣き出しそうな顔で言いました。「手に持ってるじゃん」と、マロンが言いました。「これは、パパのウチワを黙って借りて来ちゃったんだ。見つかったら、叱られちゃう」。「昨日、空に飛び上がるときに、手に持っていたよ」と、マロンが教えてあげました。「あの後、どこに行ったの?」。
小天狗は、マロンから逃げた後のことを思い出してみました。「あれから、確か雲の上に舞い上がって、カミナリさまのところに遊びに行って…」と、小天狗が言いました。「じゃあ、カミナリさまのところに忘れたんじゃあないの?」と、マロンが言いました。「そうかなあ?覚えていないんだよな」。「僕も行ってあげるよ」と、マロンが先に飛び上がりました。小天狗も大天狗のウチワを一あおぎして、後を追いました。
「カミナリさま。昨日、小天狗くんがウチワを忘れていきませんでしたか?」と、マロンが聞いてみました。カミナリさまの子どもたちが、手に手にウチワを持ってゾロゾロと出てきました。「お願い。僕のウチワを返して!」と、小天狗が言いました。「子どもたちが持っているのは、みんな『ふくろい遠州の花火』のウチワだよ。小天狗くんは、昨日、ウチワを持って飛んでいったよ。あの後、どこに行ったの?」と、カミナリさまが聞きました。「あの後、もしかしたら、魔女のキャサリンさんの森に行ったような気が…」と、小天狗が言いました。「本当に、思い出せないんだ」。「じゃあ、キャサリンさんのところに行ってみよう」と、マロンと小天狗は一緒に空を飛びました。
「キャサリンさん!」と、マロンが先に着きました。「まあ、マロン。暑いわねえ」と、キャサリンはパジャマのままで出てきました。手には大きなウチワを持っています。「キャサリンさん。そのウチワって、もしかしたら、天狗のウチワ?」と、マロンが聞きました。「そうよ。昨日、そこの小天狗くんと交換したのよね?」と、キャサリンが言いました。「ほら、『ふくろい遠州の花火』のウチワと交換したじゃない」。「僕、もう思い出せないよ」と、小天狗がとうとうべそをかき始めました。「でも、あのウチワでちゃんと飛べてたわよ」。
「まあ、そう言わずに返してあげてよ」と、マロンがウチワであおぎながら言いました。「マロンこそ返してあげたら」と、キャサリンが言いました。「これは、天狗のウチワじゃあないもん。涼しいけど…」「ほら、ごらん。涼しければ、天狗のウチワでしょう?」「キャサリンさん。大人気ないよ」「子どもで結構!」と、キャサリンが言い張り、「ワーン!」と、小天狗の泣き声が誰も知らない森の奥の奥に響きました。
「はい、はい。返します。返します」と、キャサリンが天狗のウチワを小天狗に返しました。今泣いたばかりの天狗に笑顔が戻りました。「ああ、良かった!じゃあ、僕、帰る!」と、小天狗がウチワを一あおぎ。たちまち、空へと舞い上がりました。「良かったね」と、マロンが言いました。「そうかしら?」とキャサリンが首をかしげました。「あの子は、大天狗のウチワを忘れて行っちゃったよ」。「もう、忘れっぽいんだから」と、マロンが言いました。「じゃあ、僕が届けてあげる」。マロンは大天狗のウチワを口にくわえて、『ふくろい遠州の花火』のウチワで一あおぎ。「小天狗く~ん」と、後を追って空を飛びました。「ウチワを忘れてるよ~」。