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2021年07月30日

修平さんの紙飛行機

 今日は朝からポカポカの上天気。子供たちは、公園の広場に集まって遊んでいました。和くんも「空飛ぶコーギー」のマロンもその中にいました。車椅子の健ちゃんの姿も見えます。誰かが、紙飛行機で遊び始めました。和くんたちも紙飛行機を折りました。ロケットみたいに尖らせたり、尾羽根を立てたり、それぞれ工夫を凝らして、遠くに飛ばそうと一生懸命です。飛び回る白い紙飛行機を追いかけるようにマロンも空を飛んでいます。健ちゃんも車椅子を押してくれるお姉ちゃんの陽ちゃんに手伝ってもらい、力いっぱい紙飛行機を飛ばしました。大きな羽根の三角形の飛行機は、穏やかな風に載り、フワリフワリと弧を描きながら、広場の反対の小道まで飛んでいきました。わーい、わーい!

 修平おじいさんが杖を突きながら公園の小道に差し掛かったのは、ちょうど、その時でした。修平さんは、その紙飛行機を見上げると、エイとばかりに手にした杖ではたき落としました。子供たちは、ビックリしました。陽ちゃんが紙飛行機に駆け寄りました。「ごめんなさい。ご迷惑をかけました」と、修平おじいさんに謝りました。修平さんは何も答えずに広場の中に入ってきました。広場では、子供たちの紙飛行機がいくつもいくつも飛んでいました。

 修平さんは、その紙飛行機に近づいて、さっきと同じように一つ一つ、杖を振り上げてははたき落としました。子供たちは、黙って自分の紙飛行機を拾いました。空を飛んでいたマロンも驚いて降りてきました。修平おじいさんは低い小さな声で「飛行機を飛ばすのは、やめなさい」とつぶやくように言いました。最後まで飛んでいた和くんの紙飛行機にも、修平さんの杖が鋭く振り下ろされました。マロンがワンワンと吠えました。その声に驚いたように、修平さんの杖が空を切りました。グラっと傾き、修平おじいさんの体が広場の土の上に倒れました。

 健ちゃんの車椅子が真っ先に駆けつけました。続いてマロンが駆け寄りました。和くんが、修平おじいさんに「大丈夫ですか?」と声をかけ、抱き起こしました。修平さんの頬は広場の土と涙で汚れていました。「すまんな。大人気ないことをしてしまった」と修平さんは言いました。「ワシは、昔、日本が戦争をしていた頃、飛行機に乗っていたことがあってなあ」と、胡坐をかいて話し始めました。

 いつの間にか、子供たちが心配そうに集まってきました。「ワシの仲間たちは、飛行機に乗って、泣きながら海の中に消えて行ったんだ」と、修平おじいさんの話に耳を傾けました。「人間は鳥や昆虫じゃあないんだ。だから空を飛ぶなんて、してはいけないことなんじゃあないかって思うな。飛べもしない人間が、空を飛んで、何人も何人も死んでいった。死ぬためだけに飛んで行ったんだよ。飛べもしない人間がね」と、修平さんは大きなため息をつきました。「ワシは何もできずに仲間を見送って以来、飛行機が憎くて憎くて」と、子供たちを見回しました。その目には、暖かい涙が光っていました。マロンにも、修平おじいさんの気持ちがよく分かりました。

 「君たちも、おじいちゃんやおばあちゃんに聞いてごらん。黒くて大きな飛行機に追い回されて、暗い穴の中で息を潜めていた頃の話を」と、修平さんは続けました。「そりゃあ、怖かったさ。家々が焼かれて、服が焼かれて、熱い熱いと死んでいった人が、どれほどいたことか。みんな、飛行機が震えるほど怖かったんだ」。修平おじいさんの周りには、マロンの仲間たちも集まって来ました。トイ・プードルのキャンディーもラブラドールも集まって来ました。

 「でもね。この子たちが、そんな世界を変えてくれるのよ」と、里子おばあちゃんの声がしました。和くんが振り返りました。マロンは嬉しくて、おばあちゃんの車椅子に駆け寄りました。

 「修平さん。あなたの言いたいことはよく分かるけど、それは、この子たちが悪いんじゃあないわ。子供たちの紙飛行機は、子供たちの夢を乗せているのよ。マロンちゃんだって、ママに会いたくって、空を飛んだのよ。夢を持つってことは、素晴らしいことだと思うわ」と、里子おばあちゃんが言いました。「そう言う里子さんの夢って何なんだ?」と修平さんが聞きました。「私の夢?私の夢はね、こうして可愛いマロンちゃんや子供たちに会って、いっぱいお話することかな」と里子おばあちゃんは答えました。

 里子おばあちゃんが上着のポケットに手を入れました。「さあ、みんなで食べましょう」と、黄色いミカンを出しました。それを見て、修平おじいさんも「いやあ、実はワシも」と、同じようにポケットをゴソゴソやってミカンを取り出しました。「さあ、子供たちも、一緒にミカンを食べようか」と、恥ずかしそうに言いました。和くんが手を出しました。陽ちゃんも一つ受け取り、皮を剥いて二つに割りました。次々と子供たちの手が伸びました。里子おばあちゃんはマロンにミカンを半分あげました。トイ・プードルのキャンディーはマロンのミカンを分けてもらいました。みんな、みんな、ミカンを口に入れて、甘酸っぱさを感じていました。

 「みんなで分けて食べるミカンって、本当に美味しいね」と、修平おじいさんが言いました。みんなが大きくうなずきました。「そうか。紙飛行機は子供たちの夢を乗せて飛んでいるのか」と、修平さんが、真っ白な紙飛行機を空に向けて飛ばしました。公園のハトたちが、紙飛行機を取り巻きました。マロンが駆け出しました。短い足が地面を蹴って、空へと飛び上がりました。「おお、マロン。ワシの代わりに飛んでくれ!ワシの夢は、マロンの夢と同じさ。いつか、ママに会いに行きたいんだよ」と、修平おじいさんは笑いながら言いました。子供たちの紙飛行機が修平おじいさんの夢を乗せて、一斉に空へと舞い上がりました。


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Posted by みんなと倶楽部 ⚓ 掛塚・斉藤さん at 05:02│Comments(0)修平さん空飛ぶコーギー
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