森の童話館「空飛ぶコーギー」

　「ああ、退屈だ」。「空飛ぶコーギー」のマロンは公園に向かう道を、短い足をパタパタさせながら歩いていました。マロンの前を、トイ・プードルのキャンディーが横切ろうとしました。「キャンディー。おめかししてどこに行くの？」と、マロンが聞きました。「お友だちと会うの」と、キャンディーが気取って答えました。「ワンワン。僕も行く」と、マロンが嬉しそうに言いました。でも、「今日は、女の子だけで集まるんだから、マロンはダメ」と、キャンディーが言いました。「えー、何で？」「だって、マロンは男の子でしょう？」。

　マロンは、パタパタと歩いて行きました。すると今度は、おしゃべりなムクドリたちがワイワイと横切りました。「ねえ、どこに行くの？」と、マロンが聞きました。「パーティーがあるんだ」と、ムクドリは言いました。「わあ、僕も行きたい。ねっ、行ってもいい？」と、マロンが聞きました。「ダメ。今日は公園の鳥たちだけのパーティーだから」と、ムクドリは言いながら、おしゃべりしながら歩いて行きました。「えー、何で？」「だって、マロンは犬じゃん」。

　「ちぇっ！みんな僕を仲間外れにするんだ」と、マロンは言いました。マロンの前に池のカメが顔を出しました。「ねえ、カメさん。どこに行くの？」と、マロンは聞きました。「ザリガニ池で仲間たちの集会があってね」と、カメは言いました。「集会？みんな集まるの？」「そうだよ。ザリガニはもちろん、タガメやカエルたちや池で暮らす仲間がね」「僕も行ってもいい？」「いいけど。集会はまだ明後日だよ」と、カメは言いながら、いそいそと歩いて行きました。「僕の足だと、いくら急いでも、２日はかかるんだ」。

　「あーあ、つまらない」と、マロンは言いました。マロンのパタパタ歩きは、もう公園に着いてしまいました。退屈で退屈で公園の道を１周２周と回って歩きました。公園の広場では、キャンディーたちが集まってペチャクチャと楽しそうにお話をしていました。あれ？その中に、ポメラニアンのポテトの姿が見えました。「何でポテチが入ってるよ」と、マロンが口を尖らせて言いました。「ポテチはやっぱ、女の子だったから？」。「違うわ。子どもは入ってもいいの。ポテチはまだ子どもでしょう？」と、キャンディーが言いました。ポテトはニヤニヤしながら、マロンの方をチラっと、見ました。「キャンディーお姉ちゃん。向こうで遊ぼう」と、ポテトはマロンに向かってペロリと舌を出しました。

　マロンは退屈で退屈で、誰も知らない森の奥の魔女のキャサリンのところに飛んで行きました。キャサリンの小屋の前には「ただ今、出かけています」の貼り紙が貼られていました。「もう、退屈で腐っちゃいそう」と、マロンは言いながら、小屋の扉にもたれて居眠りを始めました。マロンは夢の中でも退屈でした。退屈で退屈で、キャサリンの森を歩いていました。山の小道をキジの家族が横切りました。「キジさん。どこにいくの？」と、マロンが呼び止めました。先頭のお父さんキジは頭を前に突き出して、さっさと行ってしまいました。まだ空を飛べない赤ちゃんキジも、せっかちなお父さんに置いて行かれないよう、何も言わずについていきました。お母さんキジは最後に来ました。マロンの方をチラっと見て「天気のいい日には、家族で出掛けるのも、楽しいものよ。待って！置いていかないで」と、走って行きました。

　「キャサリンさん！」と、マロンが夢の空を飛んでいるキャサリンを見つけて声をかけました。キャサリンはマロンの顔を見ました。「僕、退屈で退屈で、死んじゃいそう」と、マロンが叫びました。キャサリンは「ゴメンナサイ。私は古い箒を点検に出しに行かなくっちゃいけないから…」と、マロンの頭上を回って静かに飛びました。「僕も行ってもいい？」と、マロンが聞きました。「点検が済んだら、『ローソン』で下水道料の払い込みをして、歯医者さんで奥歯の治療をして、腰痛の治療に鍼灸治療室に行って、TSUTAYAで『ダ・ヴィンチ・コード』のDVDを借りて、杏林堂でゴミ袋を買ってアレを買ってこれを買って…」。「もう、いい！」と、マロンが言ったら目が覚めました。

　「マロン。何してたの？」と、パジャマを着たままのキャサリンが立っていました。「マロン。退屈してたんでしょう？」。「もう、死んじゃいそうだった」と、マロンは言いました。「今から、これを見るけど、一緒に見ようか？」と、キャサリンがうめたちあきライブのビデオを取り出しました。「さっき、届いたばかりなのよね。30本もダビングしたんだって」。「ワンワン。見る見る。これで、退屈な一日が終わりそう」」と、マロンは喜びました。…とさ。