森の童話館「空飛ぶコーギー」

　「メロン。メロンは私のことを覚えているかしら？私は、メロンがまだママのお腹にいた頃に、あなたと会っているのよ」と、パジャマを着た魔女のキャサリンが「空飛ぶコーギー」のマロンに言いました。「私たち魔女はね、世界中のママのお腹の中で、世界中の子どもが幸せに生まれるように、呪文をかけているの。メロンはママのお腹の中でも、とても元気で優しい子だったわ」。「ええ？キャサリンさんは、僕のこと知ってたの？」と、マロンは驚きました。

　「メロンは、ママのお腹の中にいた時から、耳が大きくてママにそっくり。この子は将来必ず空を飛べるようになるって、思ったものよ。メロンのママに夢が叶う呪文を教えたのは、私なのよ」と、キャサリンは言いました。「でもね、メロンに呪文をかけるのには、ママの深い愛情が必要だったの。『夢は必ず叶う』っていう言葉は、ママがありったけの愛情を込めてあなたに伝えた夢の呪文なのよ」と、キャサリンは目を細めながら言いました。「キャサリンさんのママは？」と、マロンが聞きました。「ホホホホホ。まあ、私のママ？私はね、600年前に、森から生まれたのよ。誰も知らないこの森の緑が、私のママなの」と、キャサリンさんは答えました。「『夢は必ず叶う』とは、私が生まれた時に森からかけてもらった呪文の言葉なの。私は、その言葉をメロン、あなたに伝えることができて、本当に嬉しかったわ」。

　魔女のキャサリンはロッキング・チェアを揺すりながら、朝露に濡れた緑の草の葉のような呪文の言葉を集めて、花の首飾りを編んでいました。マロンは、キャサリンの足元で伏せのポーズをして聞いていました。キャサリンの言葉は、ママ犬の言葉のように聞こえました。「メロン。この魔法の首飾りは、あなたにあげるわね。それから、こっちは、あなたのママの分」と、キャサリンは言いました。「魔法の首飾り？」と、マロンは聞きました。「そうよ、メロン。夢が叶う呪文を編み込んだ花の首飾りよ」と、キャサリンは答えました。「そうなんだ。ステキだね。ねえ、キャサリンさん。僕の友だちの分も作ってよ。僕、この首飾りを、街のみんなに配りたいな？」と、マロンは言いました。「そうね。気がつかなかったわ。じゃあ、たくさん編みましょう。でも、夢を持って生きている者にしか、効き目はありませんからね」と、キャサリンは呪文の言葉をつぶやきながら、せっせと首飾りを編みました。キャサリンのロッキング・チェアが気持ち良さそうに揺れていました。

　どこからか、森の妖精たちもやってきて、花の首飾りを編みました。マロンも短い前足で花の首飾りを編みました。首飾りはいい香りを放ち、キャサリンの小屋の中に初夏の陽射しが入り込みました。「メロン。何を考えているの？」と、キャサリンが聞きました。「僕？僕は今、『ママありがとう！』の言葉を編んでいたんです」と、マロンが言いました。「そう？メロンのママには、メロンが編んだ首飾りの方が良さそうね？」と、キャサリンは言いました。「うん。僕、キャサリンさんが編んでくれた首飾りと、僕が編んだ首飾りを二つあげようと思うんだ」「それは、いい考えね。きっと、ママも喜ぶわ」。「それから、もう一つは、キャサリンさんへ」と、マロンが編んだ首飾りを差し出しました。キャサリンはとても驚きました。「これを？私にくれるの？」と、キャサリンが聞きました。「うん。『僕は、マロンです』の呪文を編み込んだから…」と、マロンがニイと笑いました。「マロン。あら、今、私、マロンって言ったわよね。マロン、ありがとう。ママのお腹の中で会った時と変わらず、優しい子ね」と、キャサリンの目に涙が光りました。「私、プレゼントなんてもらうのは、600年も生きていて初めてだわ」と、キャサリンは言いました。

　「さあ、マロン。魔法の首飾りを持って、ママ犬のところへ飛んで行きなさい。後の首飾りは、一緒に配りましょうね？」と、キャサリンが首飾りを首にかけて言いました。「マロンの首飾りも忘れちゃダメよ」。「はーい。僕、また戻ってきます」と、魔法の首飾りを首にかけたマロンは、ママ犬目指して飛んで行きました。「さあ、頑張って首飾りを編みましょう」と、キャサリンは言いました。森の妖精たちも、「キャンディー、ポテト、モモ、ミク、チョロ、ボーボ、ナツ、クッキー、サラダ…」と、名前を数えながら、首飾りを編みました。「『花』のも忘れないでね」と、キャサリンが言いました。「ミクとチョロのママ犬よ」。