2021年03月20日
パジャマを着た魔女
このところ、魔女のキャサリンはすっかり退屈していました。「誰も、叶えて欲しい望みなんかないようだし…」と、空を飛んでもため息ばかりでした。
キャサリンは誰も知らない森の奥に住んでいました。でも、呼んでくれる人さえいれば、どんなに遠くても飛んできました。ハーブの匂いの染みたマントを着て、月の出ない夜のように真っ黒な帽子をかぶり、600年も前から使っている古い箒の柄にまたがって飛んできました。「この箒も私と同じだけ古くなってはきたけど、まだまだ空を飛ぶには十分だから、とても新しいものと取り替える気にはなれないわ」と、キャサリンは少しスピードの出なくなった箒を、大事に大事に使っていました。
魔女のキャサリンを呼ぶのは簡単でした。「キャサリンリンリン、キャサリンリン!」と、誰でも知っている呪文を声に出して唱えるだけで、いつでもどこにいてもあっという間に飛んでくるのでした。ただ、近頃のキャサリンは少し耳が遠くなってきていましたので、「大きな声で叫んでくれると助かるけどね…」と、言ってはいますが、だからと言って、怒鳴るほど大きな声でなくてもいいようです。
魔女のキャサリンは退屈しのぎに、マロンたちの街の空に飛んできました。魔法を使ってさえいれば、ただ風が吹き過ぎるだけで、誰にも見つからない自信がありました。ところが、この街の空で、空飛ぶマロンに見つかってしまったのです。マロンは、正面からじっとキャサリンを見て、ニイと笑っていました。キャサリンは知らん顔をして方向を右に変えました。ところが、絶対に見られるはずがないのに、マロンが後を追ってきたのです。キャサリンが箒を停めると、マロンもニイと笑って停まります。キャサリンが左に行くと、マロンも左に追って来ました。信じられないことでしたが、これはもうマロンに見られているとしか思えませんでした。「あなたには、私が見えているの?」と、キャサリンは聞きました。マロンは大きく首を縦に振りました。
「あなたは誰ですか?」と、マロンが聞きました。「あら、私を知らないの?私は魔女のキャサリン。もう600年もみんなの望みを叶えてきたのよ。そう言うあなたは誰なの?」とキャサリンは言いました。「僕は、空飛ぶコーギーのマロンです」と、マロンが言いました。「まあ、時代が変わったのね。犬が空を飛ぶなんて…」と、キャサリンは首を横に振りながら言いました。「それにしても、どうして私は見つかっちゃったのかしら?」と、キャサリンは言いました。「だって、そのパジャマでは、誰でも見えますよ」と、マロンは言いました。「まあ!」。魔女のキャサリンはいつものハーブの匂いの染みた黒いマントではなく、夕べのまんまのマーガレットの花柄模様のパジャマと帽子のまま、飛んできたのでした。「着替えるのを、忘れたのね?」。
「キャサリンリンリンモンブラン!」と、キャサリンは空を飛びながら呪文を唱えました。それでも、マロンはニイと笑って、こちらを見ていました。「これでも、見える?」と、キャサリンが聞きました。「だって、パジャマの模様が変わっただけでは、誰だって見えますよ」と、マロンは言いました。「まあ!」。キャサリンのパジャマは、かわいい小熊の模様に変わっていました。「あら?こんなはずじゃあなかったのにね…」と、キャサリンは言いました。「キャサリンリンリンモンブランじゃなくて、キャサリンリンリンミルフィーユ!」と、別の呪文を唱えました。今度はパジャマの模様が真っ赤な木イチゴに変わりました。「おやおや。何と言えば良かったのかね?」と、魔女のキャサリンは嘆きました。
「キャサリンさん」と、マロンは言いました。「お願いがあるんですけど…。ポメラニアンのポテトがこの頃、眠れないんだって。呪文をかけてあげてもらえませんか?」。「まあ、珍しいわね。久しぶりの望みだわ。分かったわ。連れて行ってちょうだい」と、キャサリンは言いました。マロンは、キャサリンを連れて、ポテトのところにやって来ました。「ポテチ。いる?」と、声をかけました。「あー眠い、眠い。でも、眠られないんだよね」と、ポテトが大きなあくびを一つしました。魔女のキャサリンは早速、呪文を唱えました。「キャサリンリンリンマドレーヌ!」。「マドレーヌ?」と、ポテトは言いました。キャサリンのパジャマが、おいしそうなケーキの模様に変わりました。「キャサリンリンリンドーナッツ!」と、マロンが言いました。キャサリンのパジャマが、甘そうなドーナツの模様に変わりました。「あらまあ。私の魔法より、マロンの魔法の方が効きそうね」と、キャサリンは言いました。「キャサリンリンリンシュークリーム!」「キャサリンリンリンアップルパイ!」と、マロンが呪文を唱えるたびに、キャサリンのパジャマの模様が変わりました。「私は、もう、おばあちゃんだから、そろそろ引退しないとね…」と、キャサリンは寂しそうに言いました。「でも、ポテチは眠ったみたい」と、マロンが小さな声で言いました。ポテトはときどき口を動かしながら、よだれを垂らして眠っていました。「あら、私の魔法が効いたのかしら?きっと、おいしいものでも食べている夢を見ているんだわ」と、キャサリンが嬉しそうに言いました。「マロン。また遊びに来てもいいかい?」。「もちろん」と、マロンがニイと笑って、パジャマを着た魔女のキャサリンに言いました。
キャサリンは誰も知らない森の奥に住んでいました。でも、呼んでくれる人さえいれば、どんなに遠くても飛んできました。ハーブの匂いの染みたマントを着て、月の出ない夜のように真っ黒な帽子をかぶり、600年も前から使っている古い箒の柄にまたがって飛んできました。「この箒も私と同じだけ古くなってはきたけど、まだまだ空を飛ぶには十分だから、とても新しいものと取り替える気にはなれないわ」と、キャサリンは少しスピードの出なくなった箒を、大事に大事に使っていました。
魔女のキャサリンを呼ぶのは簡単でした。「キャサリンリンリン、キャサリンリン!」と、誰でも知っている呪文を声に出して唱えるだけで、いつでもどこにいてもあっという間に飛んでくるのでした。ただ、近頃のキャサリンは少し耳が遠くなってきていましたので、「大きな声で叫んでくれると助かるけどね…」と、言ってはいますが、だからと言って、怒鳴るほど大きな声でなくてもいいようです。
魔女のキャサリンは退屈しのぎに、マロンたちの街の空に飛んできました。魔法を使ってさえいれば、ただ風が吹き過ぎるだけで、誰にも見つからない自信がありました。ところが、この街の空で、空飛ぶマロンに見つかってしまったのです。マロンは、正面からじっとキャサリンを見て、ニイと笑っていました。キャサリンは知らん顔をして方向を右に変えました。ところが、絶対に見られるはずがないのに、マロンが後を追ってきたのです。キャサリンが箒を停めると、マロンもニイと笑って停まります。キャサリンが左に行くと、マロンも左に追って来ました。信じられないことでしたが、これはもうマロンに見られているとしか思えませんでした。「あなたには、私が見えているの?」と、キャサリンは聞きました。マロンは大きく首を縦に振りました。
「あなたは誰ですか?」と、マロンが聞きました。「あら、私を知らないの?私は魔女のキャサリン。もう600年もみんなの望みを叶えてきたのよ。そう言うあなたは誰なの?」とキャサリンは言いました。「僕は、空飛ぶコーギーのマロンです」と、マロンが言いました。「まあ、時代が変わったのね。犬が空を飛ぶなんて…」と、キャサリンは首を横に振りながら言いました。「それにしても、どうして私は見つかっちゃったのかしら?」と、キャサリンは言いました。「だって、そのパジャマでは、誰でも見えますよ」と、マロンは言いました。「まあ!」。魔女のキャサリンはいつものハーブの匂いの染みた黒いマントではなく、夕べのまんまのマーガレットの花柄模様のパジャマと帽子のまま、飛んできたのでした。「着替えるのを、忘れたのね?」。
「キャサリンリンリンモンブラン!」と、キャサリンは空を飛びながら呪文を唱えました。それでも、マロンはニイと笑って、こちらを見ていました。「これでも、見える?」と、キャサリンが聞きました。「だって、パジャマの模様が変わっただけでは、誰だって見えますよ」と、マロンは言いました。「まあ!」。キャサリンのパジャマは、かわいい小熊の模様に変わっていました。「あら?こんなはずじゃあなかったのにね…」と、キャサリンは言いました。「キャサリンリンリンモンブランじゃなくて、キャサリンリンリンミルフィーユ!」と、別の呪文を唱えました。今度はパジャマの模様が真っ赤な木イチゴに変わりました。「おやおや。何と言えば良かったのかね?」と、魔女のキャサリンは嘆きました。
「キャサリンさん」と、マロンは言いました。「お願いがあるんですけど…。ポメラニアンのポテトがこの頃、眠れないんだって。呪文をかけてあげてもらえませんか?」。「まあ、珍しいわね。久しぶりの望みだわ。分かったわ。連れて行ってちょうだい」と、キャサリンは言いました。マロンは、キャサリンを連れて、ポテトのところにやって来ました。「ポテチ。いる?」と、声をかけました。「あー眠い、眠い。でも、眠られないんだよね」と、ポテトが大きなあくびを一つしました。魔女のキャサリンは早速、呪文を唱えました。「キャサリンリンリンマドレーヌ!」。「マドレーヌ?」と、ポテトは言いました。キャサリンのパジャマが、おいしそうなケーキの模様に変わりました。「キャサリンリンリンドーナッツ!」と、マロンが言いました。キャサリンのパジャマが、甘そうなドーナツの模様に変わりました。「あらまあ。私の魔法より、マロンの魔法の方が効きそうね」と、キャサリンは言いました。「キャサリンリンリンシュークリーム!」「キャサリンリンリンアップルパイ!」と、マロンが呪文を唱えるたびに、キャサリンのパジャマの模様が変わりました。「私は、もう、おばあちゃんだから、そろそろ引退しないとね…」と、キャサリンは寂しそうに言いました。「でも、ポテチは眠ったみたい」と、マロンが小さな声で言いました。ポテトはときどき口を動かしながら、よだれを垂らして眠っていました。「あら、私の魔法が効いたのかしら?きっと、おいしいものでも食べている夢を見ているんだわ」と、キャサリンが嬉しそうに言いました。「マロン。また遊びに来てもいいかい?」。「もちろん」と、マロンがニイと笑って、パジャマを着た魔女のキャサリンに言いました。