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2021年01月15日

満月の夜の物語

 ある満月の夜のことでした。夜空を飛んでいるマロンは、月明かりの海岸にいるもう一匹のウエルッシュ・コーギーを見つけました。その犬の名前はミク。額から鼻にかけての筋が満月の明かりに照らされて白く光り、空の上からでもすぐにミクだと分かりました。ときどき公園ですれ違う、どちらかと言えばおとなしい感じの犬だったのですが、でも、その夜のミクは違っていました。一心不乱に走っています。わき目もふらずに走っています。砂浜のあちらの端からこちらの端まで、時には海岸に押し寄せる波を蹴立てて、短い足をパタパタパタパタ走っていました。砂浜には、ミクの付けた足跡が、幾筋も幾筋も黒くくっきりと残っています。

 マロンがすぐそばに降りてきたのにも、ミクは気づかないようすでした。マロンはミクに声をかけました。「ミクさん。こんばんは」。ミクは少し行き過ぎてから立ち止まり、息を切らせながら戻ってきました。「ああ、君は、確か…、空飛ぶコーギーのマロン、だったよね。まさか、こんなところを見られるとは、思ってもいなかった」と、ミクは言いました。「何をしているんですか?」と、マロンは聞いてみました。「何を?」とミクは言いました。「空を飛ぼうと思って、毎晩毎晩走っているんだけど…。ちょうど良かった。マロン、僕も、飛べるようになれるかな?」。

 マロンは、決して自分だけが特別な犬だとも思ってはいませんでしたが、だからと言って、誰でも空を飛べるようになるとも思いませんでした。「うーん。ミクさんは、どうして空を飛びたいんですか?」と、マロンは聞きました。「僕は、この広い海でサーフィンをしたり、泳いだりするのが大好きなんだ。このどこまでも続く海を、一目でいいから空から見下ろしたてみたいと思ってね」と、ミクが言いました。「へー、サーフィン。僕は、泳ぐこともできないのに」と、マロンは驚きました。「それから、僕には海を渡って、行ってみたい国があるんだ」と、ミクは続けました。「元々僕たちの先祖は、遠い遠い王国から海を渡って来たんだって。そんな僕たちの仲間のいる国に、一度でいいから、行ってみたいって思わない?」と、ミクは言いました。「僕は、僕たちウエルッシュ・コーギーの国に行ってみたいんだ。その国では、僕たちの仲間が国中に住んでいて、女王様もコーギーだって。みんながコーギーの言葉を話し、コーギーの音楽を楽しみ、海岸で泳いだりサーフィンをしたり、コーギーのサッカー大会だって開かれるんだって。まさに、コーギーの天国、コーギーの楽園だね」と、ミクは目を輝かせて言いました。
満月の夜の物語


 マロンもミクの話を聞いて、ワクワクしてきました。「そうなんだ。海の向こうには、コーギー王国があるんだ」と、マロンは言いました。「でも、どれくらい遠いんだろう?僕、隣りの町まで飛んだだけで、もう疲れちゃってフラフラだったけど」。「そうなんだ。僕も、あの岬の灯台の下まで泳いだだけで、おぼれそうになったことがあるんだ」と、ミクは言いました。「でも、王国だよ。王国!」。

 満月が次第に高く上がり、ますます明るく海を照らし始めました。波がしらが、月に照らされて、キラキラと金色に光っていました。その金色に光る波がしらが、沖の向こうからこちらに近づくにつれて、波の上を走ってくるたくさん見慣れたの犬の姿に変わりました。「ミクさん。あれを見て!コーギーじゃない?みんな僕たちの仲間だよ」と、マロンが叫びました。マロンやミクにそっくりな尻尾のないコーギーが、次から次へと、海の上を渡ってきます。マロンやミクと同じように短い足をパタパタさせて走る姿は、遠目にもすぐにコーギーだと分かりました。「コーギーだ!何百、いや何千匹ものコーギーの大群だ!」と、ミクも大きな声をあげました。「きっと、コーギーの国から来たんだね?」と、マロンが言いました。「きっと、コーギー王国から来たに違いない」と、ミクも言いました。

 ザザーザザーと波が海岸に寄せています。金色に光るコーギーの大群が、マロンとミクのいる浜に近づいてきます。ワンワンと、マロンとミクは精一杯の大声で迎えました。ところが、どうしたことでしょう?あと少しで砂浜に着くという所で、金色のコーギーは突然、姿を消してしまいました。次々と押し寄せるコーギーの大群も、やはりあと少しのところで、波の中に消えていきます。ワンワンと二匹のコーギーは叫びました。「さあ、早くジャンプして!」と、ミクが言いましたが、波間のコーギーたちに聞こえたのかどうかは分かりません。ワンワンと二匹のコーギーは叫びました。「僕たちに、コーギー王国の話を聞かせて!」と、マロンが言いましたが、消えていくコーギーたちに聞こえたのかどうかは分かりません。コーギーたちは、次々と海岸に近づき、次々と消えていきました。

 長い時間が過ぎました。「マロン。帰ろうか?」と、ミクが言いました。いつの間にか、満月に薄い雲がかかり、金色のコーギーたちも見えなくなりました。「ミクさん。帰りましょう」と、マロンも小さな声で言いました。「それにしても、いつかは、コーギーの国に行ってみたいね」と、ミクが言いました。「いつか絶対にね。飛びますか?それとも泳いで?」と、マロンも言いました。二匹のコーギーは満月を背にして帰り始めました。

 「マロン。そこのペットボトルを拾って!」と、ミクが言いました。マロンの足元に、砂に埋もれたペットボトルがのぞいていました。「海岸はきれいにしないとね」と、ミクが言いました。マロンは短い前足で砂を掘りました。半分埋もれたペットボトルを掘り出しました。マロンは、掘り出したペットボトルをくわえました。「このペットボトルは、遠い遠い、コーギー王国から流れ着いたのかも知れないね」と、ミクが言いました。二匹のコーギーはペットボトルをゴミかごに捨てました。満月が二匹の背中を照らし、砂浜に、二つの影を優しく作っていました。


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Posted by AKG(秋葉観光ガイド)の斉藤さん at 05:47│Comments(0)空飛ぶコーギー
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