森の童話館「空飛ぶコーギー」

　「クッキー。この板切れもらってもいい？」と、ポメラニアンのポテトがやってきました。「ああ、いいけど。何にするの？」と、わんぱくビーグルのクッキーが聞きました。「僕、モモちゃんの小屋を作ってあげようと思って」と、ポテトが答えました。「若いの。好きなだけ持っていきな」と、クッキーが真っ白なタオルで汗をぬぐいながら言いました。「若いのって。クッキーはいくつなの？」。

　クッキーは棟梁からもらった半纏を肩にかけ、ポテトの様子を眺めていました。ポテトがギコギコと板を切り始めました。「おう。若いの。のこぎりの目が違ってるぜ」と、クッキーが言いました。「のこぎりにゃ、縦挽きと横挽きとがあって…」と、クッキーがじれったそうに教えました。「カナヅチ貸してね」と、ポテトがトントンと始めました。「痛！」と、ポテトが前足の指をしゃぶりました。「指を叩いちゃった」。「よく見てねえからさ」と、クッキーはさっきから、棟梁の口真似で話しています。「あれ？こことここがくっつかない」と、ポテトが言いました。「当たりめえだ。板が直角に切れてねえ」と、クッキーが電動ノコギリでシャイーン、シャイーンと切りそろえてくれました。「若いの。仕事は丁寧にな」。

　トントンと四角い木の箱ができました。「で、どこから入るのかなあ？」と、ポテトが言いました。「最初に図面を描いたのか？」と、クッキーが聞きました？「図面？」と、ポテトが聞きました。「何、それって？」。「図面ってえのは、設計図のことさ。高さがどれだけ、幅がどれだけ、奥行きがどれだけ。まず、それをきちんと書き上げる。材料は差し金で計って墨を入れる。墨だしするときには、のこぎりの歯幅も頭に入れてな。それが段取りってもんだ」と、クッキーが言いましたが、ポテトには何やらチンプンカンプンでした。

　「空飛ぶコーギー」のマロンが『猫魂』のＴシャツを着てやってきました。「マロン。おはよう」と、ポテトが言いました。「にゃ～！」と、マロンが言いました。「何、それって？マロンはいつから猫になったの？」と、ポテトが聞きましたが、マロンは「にゃ～！」と、繰り返すばかりでした。

　ポテトは四角い箱に屋根を取り付けることにしました。「どうすればいいの？」と、クッキーに聞きました。「何寸前に出すんだ？」と、今度はクッキーが聞きました。「寸？」と、ポテトが言いました。「ああ、昔の大工は、寸法を出すのに、尺や寸を使ったんだ」と、クッキーが腹巻に前足を入れながら言いました。腹巻の中から、紙と鉛筆が出てきました。クッキーは鉛筆の頭を舐め、シャカシャカと図面を描きました。「ここが、こうなって、ここんところは、ああして、こうして…」と、言いながら、図面を描き終わると、鉛筆を頭に巻いたタオルにツンと挟みました。「さあ、これでいいだろう」と言われても、ポテトには何が何だかさっぱり分かりません。板を斜めに打ちつけようとしたのですが、「若いの。板の目を見たのか？」と、クッキーの声が響きました。「板の、目？」と、ポテトがクッキーの顔と手にした板を、あっちこっち見てみました。「目？」と、ポテトは、もう一度聞きました。マロンは雰囲気に馴染めず、「にゃ～！」と、誰かに向かって小さな声でしていました。

　さあ、完成しました。「若いの。早くモモちゃんのところに届けてやりな」と、クッキーが言いました。それを聞いたマロンが言いました。「ええ？モモちゃん？これって、モモちゃんのなの？」。「そうだよ。モモちゃんの犬小屋。いいでしょう？」と、ポテトが胸を張りました。「僕はまた、オカメインコのエリちゃんの巣箱だと思ってた」と、マロンが言いました。「若いの。モモちゃんってのは、小鳥だろう？」と、クッキーが聞きました。「ううん。犬」と、ポテトが言いました。「犬？」と、クッキーが驚きました。「こんなに小さい小屋に入れる犬が、いるわけないだろう？」。「モモちゃんってね。パグだけどね。まだこんなに小さくてね…」と、ポテトが前足をモモの大きさに広げました。「このぐらい…。このぐらいかな…？」と、少し大きく広げました。「で、小屋の大きさは？」と、マロンが聞きました。その広げた前足をそのまま小屋に当てて、「入れないね」と、ポテトが寂しそうに言いました。「にゃ～！」と、マロンが言いました。「ラッセラー、ラッセラー」と、ポテトも踊り出しました。

　「近ごろの若いモンは…」と腕組みをしながら、クッキーが顔をしかめました。