› 森の童話館「空飛ぶコーギー」 › 空飛ぶコーギー › バッタの飛行場

2021年02月07日

バッタの飛行場

 「ここ僕の場所!」と、「空飛ぶコーギー」のマロンが、原っぱに寝そべりました。「じゃあ、私はマロンの横にする」と、トイ・プードルのキャンディーが言いました。「僕は、ここにする」と、わんぱくビーグルのクッキーがクルクル回りました。「ああ、そこはダメ!」と、マロンが言いました。「なんで?」と、クッキーが聞きました。「そこは、ポテチの場所なの」と、キャンディーが答えました。「そんなのズルイじゃん」と、クッキーがガウガウと吠えました。「そこは、ポテチが四つ葉のクローバーを見つけた場所だから、クッキーはこっちにしたら?」と、マロンが言いました。

 マロンは、タンポポの花がいっぱい咲いているところを「僕の場所」に選びました。キャンディーはピンクのレンゲの花が咲いているところを「私の場所」に選びました。クッキーが選んだ草むらには、可愛らしい空色の花が咲いていました。「これ、何ていう名前?」と、クッキーは聞きました。「聞きたい?」。「うん。教えて」。「どうしても?」「うん、どうしても。だって僕の場所じゃん」と、クッキーは言いました。「オ、オ、オオイヌノフグリ」と、マロンは早口で言いました。「えっ?」と、クッキーが聞き返しました。「オオイヌノフグリ。意味は、誰かに聞いて」と、マロンは言いました。キャンディーは聞こえないふりをしていました。

 ポメラニアンのポテチがやってきました。「ここ、ここ。ポテチの場所とってあるよ」と、マロンが声をかけました。ポテトは黙って、マロンの横に座りました。「どうしたの?」と、マロンが聞きました。「えっ?聞いてない?」と、ポテトが言いました。「この原っぱに、バッタの飛行場ができるんだって」と、ポテトが言いました。「バッタの飛行場?」と、マロンとキャンディーとクッキーが声をそろえて言いました。「何、それって?」。「うん。カタツムリのおじさんから聞いた話なんだけどね。グラスホッパー知事が飛行場を造るって言ったんだって」と、ポテチが言いました。「グラスホッパー知事って、キリギリスの?」と、マロンが聞きました。「うん。そうらしいよ。テントウムシの家族やダンゴ虫はもう引っ越したらしいし、カタツムリおじさんの仲間もゆっくり、ゆっくりと引っ越しているらしい」。「ダメだよ。ここは、みんなの原っぱなんだから。僕、絶対に反対!」と、マロンが言いました。「私も!」と、キャンディーが言いました。ガウガウとクッキーも反対しました。

 そこに、噂のグラスホッパー知事がやってきました。「これは、もう決まったこと。この飛行場は、私たちバッタ族の悲願なんだ。カブトムシやカミキリムシも賛成してくれたし」と、キリギリスの知事が言いました。「それから、飛行場の上空は、バッタ族とカブトムシとカミキリムシ以外は、一切、飛行禁止だからね。もちろん、空飛ぶコーギーも」と、知事はきっぱりと続けました。「これは、もう決まったこと。従ってもらうしかないね」。グラスホッパー知事の後ろには、トノサマバッタやハタオリバッタ、コウロギやスズムシもいました。「マロン。ゴメンネ」と、オンブバッタだけは小さな声で謝りました。

 「おーい!」と、グラスホッパー知事が空を見上げて叫びました。空には、公園のハトたちが丸く輪を描いて飛んでいました。「この空は、バッタ飛行場の空だから、バッタ族以外は飛行禁止にする!」と、知事が大きな声で言いました。ハトはポカンとして降りてきました。「えっ、飛行禁止?」。

 「おーい!」と、知事が空に向かって叫びました。「この空は飛行禁止!」。空には、春風に乗った綿雲が浮かんでいました。綿雲は何のことか分からず降りてきました。「飛行禁止?」

 「何度言ったら分かるんだ!」と、知事が怒りました。みんなが見上げる空には、演歌歌手の破れかけたポスターが舞っていました。演歌歌手のポスターは、ギターを抱えた笑顔のまま飛んで行きました。

 「いい加減にしろ!」と、またまたキリギリスの知事が大声で叫びました。「この空は飛行禁止!」。空には、暖かい光を振りまきながらお日さまが昇っていました。「飛行禁止?」と、お日さまは言いました。「これは、もう決まったこと。誰もが従ってもらうしかないね。雲だって虹だってお日さまだって」と、知事が言いました。「分からずやのキリギリス!勝手にすればいい」と、お日さまは言いました。

 お日さまは、近くにいた月を呼びました。そして、何か星の言葉で話をしました。その時、突然、お日さまの顔が欠け始めました。まだ昼間だというのに、辺りはだんだんと薄暗くなってきました。「わあ、お日さまがいなくなっちゃう」と、マロンが言いました。「大変。マロン。私たち、どうなっちゃうの?」と、キャンディーが言いました。お日さまの顔が半分以上隠れ、もうすっかり夕方の暗さになりました。コオロギやスズムシが細々と鳴き始めました。「みんな。落ち着いて。大丈夫だから」と、言いながらも、グラスホッパー知事も、ソワソワし始めました。

 「わあ、お日さまいなくなっちゃうの?」と、ポテトが言いました。ガウガウと、わんぱくクッキーも吠えました。カタツムリのおじさんが、マロンたちとハトのリーダーを集めました。「心配するな。ワシは昔、同じものを見たことがある。日蝕と言って、時間がたてば、お日さまは元通りになるよ」と、小さな声で教えてくれました。

 「お日さまは雲に隠れただけだから、心配しなように」と、グラスホッパー知事が言いました。「私ならここにいるけど…」と、原っぱに降りた綿雲が言いました。「えっ?雲なのに、どうして原っぱにいるんだ?」と、知事が聞きました。「さっき、飛行禁止だなんて、ムリなことを言ったのは、あなたでしょう?」と、綿雲が言いました。「お日さまは、怒ったのです」。コウロギやスズムシは不安になって、ますます悲しげな声で鳴きました。知事は手を背中で組んであっちに行ったり、腕を胸で組んでこっちに来たり、時々空を見上げて考えていました。

 原っぱは、夜のように真っ暗になりました。年寄りのトノサマバッタが言いました。「グラスホッパー知事。バッタ飛行場の話は中止にしましょう。元々ここは、みんなの原っぱです。我々だけが使うべきじゃあありません」。「知事。私もみんなと仲良くやっていきたいわ」と、オンブバッタも言いました。知事は決断しました。「分かった。中止にしよう」と、知事が言いました。「お日さま。バッタ飛行場は中止にします。どうか、怒りを解いてください」と、グラスホッパー知事が天に祈りました。「お願いします」。バッタたちみんなで祈りました。マロンたちも祈りました。綿雲も演歌歌手のポスターも祈りました。

 やがて、黒いお日さまの端っこがキラリと光りました。キラリと光るダイアモンドがだんだん大きくなってきました。「ほら、ご覧」と、カタツムリのおじさんが小さな声で言いました。「本当だ。おじさんの言ったとおり」と、マロンたちは言いました。お日さまの暖かい光が、再び原っぱを照らしました。「おー!」という、バッタたちの歓声が上がりました。コウロギもスズムシも鳴くのをやめました。「私は、空へ戻ってもいいでしょうか?知事閣下!」と、綿雲が言いました。「うん」と、グラスホッパー知事がうなずきました。「俺たちも?」と、ハトのリーダーが聞きました。「もちろん」と、知事が答えました。演歌歌手のポスターは黙って舞って行きました。「僕は?」と、マロンが聞きました。「飛んでくれ!今までどおり」と、知事が答えました。「やったー!」と、マロンが飛び上がると同時に、集まっていたバッタたちが、一斉に飛び立ちました。グラスホッパー知事も飛び上がりました。キャンディーもポテトもわんぱくクッキーも原っぱを駆け回りました。

 「ここ、私の場所!」と、キャンディーが一番先に暖かい原っぱに寝そべりました。「ダメー!そこは僕の場所!」と、空からマロンが叫びました。クッキーもポテトも、キャンディーのポカポカ背中に重なって寝そべりました。「ここ、僕の場所だよー!」。


同じカテゴリー(空飛ぶコーギー)の記事
修平さんの紙飛行機
修平さんの紙飛行機(2021-07-30 05:02)

整理整頓
整理整頓(2021-07-29 04:48)

ムシャムシャ
ムシャムシャ(2021-07-28 05:19)

手を洗いましょう!
手を洗いましょう!(2021-07-27 05:31)

夏の終わり
夏の終わり(2021-07-26 05:33)

空飛ぶホオズキ
空飛ぶホオズキ(2021-07-25 04:41)


Posted by AKG(秋葉観光ガイド)の斉藤さん at 05:04│Comments(0)空飛ぶコーギー
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

削除
バッタの飛行場
    コメント(0)