2020年12月24日
カタツムリ、海を見る
「おーい、マロン」と、散歩中のマロンを呼び止める、小さな小さな声が聞こえました。マロンには、それがカタツムリのおじさんの声だとすぐに分かりましたが、どこにいるのかは分かりませんでした。「マロン、こっち、こっち」と、頭の上の枝から聞こえるようでもあり、足元の草むらから聞こえるようでもあり。マロンは、あっちをキョロキョロ、こっちをキョロキョロ探してみましたが、おや?いつの間にか、鼻の頭にカタツムリが乗っかっていました。マロンは両方の目をギューっと寄せて、カタツムリのおじさんを見ました。
カタツムリのおじさんは「マロン、知っているかい?我々カタツムリが、大昔には海に棲んでいたってことを」と言いました。マロンは、首を小さく傾けました。マロンの鼻の上のカタツムリも、小さく傾きました。「我々は、貝の仲間なんだって。だから、昔の昔のそのまた昔には、海に棲んでいたんだそうだ。これは、カタツムリの間の言い伝えだけどね。で、問題の海なんだが、ある者は池のようなものだと言うし、またある者は空のようなものだとも言う。そこには、赤いのや青いのや、大きいのや小さいのや、丸いのや平べったいのや、我々の仲間がいっぱい棲んでいて、みんな楽しく暮らしていると言うんだが。はてさて、見たことのある者はおらんしな」。
「海だったら、僕、見たことがあるよ。確かに池みたいだけどずっと大きくて、空みたいだけど音楽が大きく響いている。太陽も月も星もないけど、いつでもキラキラ光っているよ」と、マロンは言いました。「おじさん、僕、連れて行ってあげようか?」と、マロンが誘いました。カタツムリのおじさんは、少し考えました。「本当は、若い者が行くべきなんじゃが」と言いながら、大きな葉っぱを一枚絨毯のように敷いて、マロンの背中にちょこんと座りました。「おじさん、しっかりとつかまっていてね」と、マロンが言いました。「つかまる?我々には手も足もないぞ。どうすりゃあいいんだ?」と、カタツムリが言いました。「じゃあ、僕の耳の中に入って」と、マロンが言いました。カタツムリはマロンの大きな耳の中に入りました。「さあ、飛ぶよ」とマロンが声をかけて飛び上がった勢いで、先ほどの大きな葉っぱが舗道にハラリと舞い落ちました。

マロンの体は、あっという間に雲の上まで上がりました。公園のハトたちが寄ってきました。「やあ、マロン。今日はどこまで?」。「カタツムリのおじさんに海を見せてあげたいんだ」と、マロンは答えました。「ええ?カタツムリ?」と、ハトのリーダーは聞きました。マロンの耳の中にいたカタツムリが、そーっと顔を出しました。「やあ、リーダー。ワシはここにいるよ。わあ!なんて高いんだ!」と悲鳴のような声で叫びました。「クックー、ククー。じゃあ、気をつけてね」と、ハトのリーダーが空の言葉で言いました。「ありがとう」とマロンが答えましたが、カタツムリのおじさんには、何と言っているのか分かりませんでした。
「おじさん、下を見てごらん。あの青いのが海だよ」と、マロンが言いました。カタツムリが恐る恐る目だけを出して、のぞいてみました。「おお、これが海か。確かに空とそっくりだな」と言いました。「違うよ。海は下。反対の方向だよ」と、マロンが言いました。カタツムリは、その時初めて海を見ました。太陽の光をはね返して、キラキラと光っています。公園の池の波よりも何倍も何十倍も何百倍も、もっともっと大きな波がうねっていました。「これが海か!」と、カタツムリのおじさんは言ったまま、黙ってしまいました。
マロンは、何回も何回も大きな円を描いて空を飛び、海岸の砂浜に降りました。カタツムリのおじさんが、マロンの耳から転がり落ち、砂浜の上でやっと体を出しました。「さて、我々の仲間のことだが…」と、右の目と左の目を別々に降りながら、あたりを見回しました。空からアジサシの鋭いクチバシがカタツムリを狙いました。ワン!と、マロンにが吠えられて、アジサシは再び空高く上っていきました。ガサガサと足音がして近づいてきたのは、野次馬みたいにどこにも行きたがって何でも知りたがるヤドカリでした。
「うん?何だ、何だ?新種のヤドカリか?」とヤドカリは言いました。カタツムリはヤドカリをじーっと見つめました。「うん?何だ?新種のカタツムリか?」とカタツムリのおじさんは思いました。マロンには、何だかどちらも同じように見えました。カタツムリは「我々と同じような殻を背負っているけど、カブトムシのような足がある」と思いました。ヤドカリは「僕たちと同じように殻を背負っているけど、貝みたいに手も足もないぞ」と思いました。そこに、いつもせっかちなカニの親子が通りかかりました。暑いのか泡みたいに汗をかいていました。「ねえ?」とマロンが聞こうとすると、カニはそれをさえぎり「忙しいんだよ。君が聞きたいことはだいたい分かってる。こっちがカタツムリで貝の仲間。こっちがヤドカリで僕らの仲間。分かった?」と、早口で言って行こうとしました。「ねえ?」とマロンが聞こうとすると、カニはまたそれをさえぎり「カタツムリは貝の仲間だけど、海には棲めないよ。海には海の貝たちがいるからね」と、聞き取れないほどの早口で言いました。「ああ、忙しい、忙しい」と、慌てた拍子に横に歩くのも忘れて行ってしまいました。

ガサガサとヤドカリが近づきました。「君は、ウミニシに似てる」と、カタツムリに言いました。「もう少し、海の近くに行ってごらん。いつも岩の上でみんなそろって昼寝をしているから」と、教えてくれました。
カタツムリとマロンは、海の近くの岩のところに行ってみました。ザバン、ザバンと寄せる波に揺られて、小さく巻かれた貝がいくつもいくつも昼寝をしていました。カタツムリは、右の目と左の目を別々に降りながら、ウミニシを見つめました。ウミニシが小さなあくびをしながら顔を出しました。「ああ、似てる」と、カタツムリのおじさんは思いました。「我々の仲間かも知れない」と、カタツムリはマロンに言いました。ウミニシは「僕らに似てるね」と、隣りのウミニシに言いました。隣りのウミニシも「僕らに似てるね」と、また隣りのウミニシに言いました。隣りから隣りへと「僕らに似ているね」と言う声が伝わりましたが、残念ながら海の言葉で話していたので、カタツムリにもマロンにも何と言っているのか分かりませんでした。もう一つザバンと大きな波が寄せてきました。マロンの短い足が濡れました。カタツムリのおじさんがプカリと水に浮きました。「わあ、しょっぱい!」と、カタツムリのおじさんは顔をしかめて言いました。
ウミニシたちは、波と一緒に海に消えました。「マロン、帰ろうか?」と、カタツムリのおじさんが言いました。「若い者だったらいいかも知れんけど、ワシの棲むところじゃあなさそうだ」と、小さな小さな声で言いました。カタツムリはマロンの耳の中に入りました。マロンは空を飛びました。「ワシは、海を見た。言葉は理解できなかったけど、我々カタツムリに似ている貝たちも見た。若い者には、海を見せたいな」と、相変わらず恐々と目だけを出して、カタツムリのおじさんは少し大きな声で言いました。「それにしても、マロン、海は空にそっくりだな」と、カタツムリは言いました。「違うよ。おじさん、海は下!」。
カタツムリのおじさんは「マロン、知っているかい?我々カタツムリが、大昔には海に棲んでいたってことを」と言いました。マロンは、首を小さく傾けました。マロンの鼻の上のカタツムリも、小さく傾きました。「我々は、貝の仲間なんだって。だから、昔の昔のそのまた昔には、海に棲んでいたんだそうだ。これは、カタツムリの間の言い伝えだけどね。で、問題の海なんだが、ある者は池のようなものだと言うし、またある者は空のようなものだとも言う。そこには、赤いのや青いのや、大きいのや小さいのや、丸いのや平べったいのや、我々の仲間がいっぱい棲んでいて、みんな楽しく暮らしていると言うんだが。はてさて、見たことのある者はおらんしな」。
「海だったら、僕、見たことがあるよ。確かに池みたいだけどずっと大きくて、空みたいだけど音楽が大きく響いている。太陽も月も星もないけど、いつでもキラキラ光っているよ」と、マロンは言いました。「おじさん、僕、連れて行ってあげようか?」と、マロンが誘いました。カタツムリのおじさんは、少し考えました。「本当は、若い者が行くべきなんじゃが」と言いながら、大きな葉っぱを一枚絨毯のように敷いて、マロンの背中にちょこんと座りました。「おじさん、しっかりとつかまっていてね」と、マロンが言いました。「つかまる?我々には手も足もないぞ。どうすりゃあいいんだ?」と、カタツムリが言いました。「じゃあ、僕の耳の中に入って」と、マロンが言いました。カタツムリはマロンの大きな耳の中に入りました。「さあ、飛ぶよ」とマロンが声をかけて飛び上がった勢いで、先ほどの大きな葉っぱが舗道にハラリと舞い落ちました。

マロンの体は、あっという間に雲の上まで上がりました。公園のハトたちが寄ってきました。「やあ、マロン。今日はどこまで?」。「カタツムリのおじさんに海を見せてあげたいんだ」と、マロンは答えました。「ええ?カタツムリ?」と、ハトのリーダーは聞きました。マロンの耳の中にいたカタツムリが、そーっと顔を出しました。「やあ、リーダー。ワシはここにいるよ。わあ!なんて高いんだ!」と悲鳴のような声で叫びました。「クックー、ククー。じゃあ、気をつけてね」と、ハトのリーダーが空の言葉で言いました。「ありがとう」とマロンが答えましたが、カタツムリのおじさんには、何と言っているのか分かりませんでした。
「おじさん、下を見てごらん。あの青いのが海だよ」と、マロンが言いました。カタツムリが恐る恐る目だけを出して、のぞいてみました。「おお、これが海か。確かに空とそっくりだな」と言いました。「違うよ。海は下。反対の方向だよ」と、マロンが言いました。カタツムリは、その時初めて海を見ました。太陽の光をはね返して、キラキラと光っています。公園の池の波よりも何倍も何十倍も何百倍も、もっともっと大きな波がうねっていました。「これが海か!」と、カタツムリのおじさんは言ったまま、黙ってしまいました。
マロンは、何回も何回も大きな円を描いて空を飛び、海岸の砂浜に降りました。カタツムリのおじさんが、マロンの耳から転がり落ち、砂浜の上でやっと体を出しました。「さて、我々の仲間のことだが…」と、右の目と左の目を別々に降りながら、あたりを見回しました。空からアジサシの鋭いクチバシがカタツムリを狙いました。ワン!と、マロンにが吠えられて、アジサシは再び空高く上っていきました。ガサガサと足音がして近づいてきたのは、野次馬みたいにどこにも行きたがって何でも知りたがるヤドカリでした。
「うん?何だ、何だ?新種のヤドカリか?」とヤドカリは言いました。カタツムリはヤドカリをじーっと見つめました。「うん?何だ?新種のカタツムリか?」とカタツムリのおじさんは思いました。マロンには、何だかどちらも同じように見えました。カタツムリは「我々と同じような殻を背負っているけど、カブトムシのような足がある」と思いました。ヤドカリは「僕たちと同じように殻を背負っているけど、貝みたいに手も足もないぞ」と思いました。そこに、いつもせっかちなカニの親子が通りかかりました。暑いのか泡みたいに汗をかいていました。「ねえ?」とマロンが聞こうとすると、カニはそれをさえぎり「忙しいんだよ。君が聞きたいことはだいたい分かってる。こっちがカタツムリで貝の仲間。こっちがヤドカリで僕らの仲間。分かった?」と、早口で言って行こうとしました。「ねえ?」とマロンが聞こうとすると、カニはまたそれをさえぎり「カタツムリは貝の仲間だけど、海には棲めないよ。海には海の貝たちがいるからね」と、聞き取れないほどの早口で言いました。「ああ、忙しい、忙しい」と、慌てた拍子に横に歩くのも忘れて行ってしまいました。

ガサガサとヤドカリが近づきました。「君は、ウミニシに似てる」と、カタツムリに言いました。「もう少し、海の近くに行ってごらん。いつも岩の上でみんなそろって昼寝をしているから」と、教えてくれました。
カタツムリとマロンは、海の近くの岩のところに行ってみました。ザバン、ザバンと寄せる波に揺られて、小さく巻かれた貝がいくつもいくつも昼寝をしていました。カタツムリは、右の目と左の目を別々に降りながら、ウミニシを見つめました。ウミニシが小さなあくびをしながら顔を出しました。「ああ、似てる」と、カタツムリのおじさんは思いました。「我々の仲間かも知れない」と、カタツムリはマロンに言いました。ウミニシは「僕らに似てるね」と、隣りのウミニシに言いました。隣りのウミニシも「僕らに似てるね」と、また隣りのウミニシに言いました。隣りから隣りへと「僕らに似ているね」と言う声が伝わりましたが、残念ながら海の言葉で話していたので、カタツムリにもマロンにも何と言っているのか分かりませんでした。もう一つザバンと大きな波が寄せてきました。マロンの短い足が濡れました。カタツムリのおじさんがプカリと水に浮きました。「わあ、しょっぱい!」と、カタツムリのおじさんは顔をしかめて言いました。
ウミニシたちは、波と一緒に海に消えました。「マロン、帰ろうか?」と、カタツムリのおじさんが言いました。「若い者だったらいいかも知れんけど、ワシの棲むところじゃあなさそうだ」と、小さな小さな声で言いました。カタツムリはマロンの耳の中に入りました。マロンは空を飛びました。「ワシは、海を見た。言葉は理解できなかったけど、我々カタツムリに似ている貝たちも見た。若い者には、海を見せたいな」と、相変わらず恐々と目だけを出して、カタツムリのおじさんは少し大きな声で言いました。「それにしても、マロン、海は空にそっくりだな」と、カタツムリは言いました。「違うよ。おじさん、海は下!」。
Posted by AKG(秋葉観光ガイド)の斉藤さん at 04:38│Comments(0)
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