2021年05月20日
とりあえず、花火
「とりあえず、行ってみようよ」と、ポメラニアンのポテトが誘いに来ました。「じゃあ、とりあえず、だね。でも、お腹が空いちゃうじゃん」と、「空飛ぶコーギー」のマロンが答えました。「こんな天気でも、見えるかなあ?」と、マロンが言いました。「だから、とりあえず、だよ」と、ポテトが言いました。2匹は夜の海に向かって、とりあえず歩いて行きました。
ザザー、ザザー♪と、波の音が聴こえてきました。ザザー、ザザー♪と繰り返し、海の鼓動を伝えてきます。「星は見えないよ?」と、マロンが言いました。「でも、海に着けば、見えるかも知れないじゃん」と、ポテトが言いました。「とりあえず…」と、2匹は歩きました。
「海だ!」と、ポテトが叫びました。空は雲っていても、波間には、キラキラした時間が光っていました。「ほら、見えるじゃん」と、ポテトが言いました。「だって、あのキラキラは星じゃあないよ」と、マロンが言いました。「何でもいいの。とりあえず、キラキラしていてきれいだから」と、ポテトが言い返しました。
マロンが波打ち際で、チカチカと輝く光を見つけました。「あれは何だろう?」。「星かなあ?」と、ポテトが言いました。「なわけないじゃん」「じゃあ、何?」「花火?」。
暗闇を透かして見ると、黒い影が一人で線香花火をしていました。「わあ、とりあえず、花火じゃん!」と、2匹は駆け出しました。パチパチと火花がはじけて、砂の上に小さな火の玉が落ちました。「ふー」と、ついたため息の音は、残念ながら2匹には聞こえませんでした。「花火、花火!」と、2匹は走りました。
黒い影が振り返りました。「奈々ちゃん?」と、マロンが気づきました。「奈々ちゃんだ」と、ポテトも大きな声で言いました。「マロンにポテト?」と、奈々ちゃんが振り向きました。2匹はとりあえず奈々ちゃんの元まで走りました。奈々ちゃんはマロンとポテトの頭を思い切りなぜてくれました。「私ね。今日の花火は一人ぽっちかなって思ってたんだ。マロンとポテトが来てくれたら、元気百倍ね」と、奈々ちゃんは少し元気になったみたいでした。「じゃあ、とりあえず花火ね」。
奈々ちゃんがマッチをこすってオレンジの炎を点しました。オレンジの炎は細い線香花火に移り、白い煙と一緒に、見たこともない世界が広がりました。「わあ、何だか別の世界への入口みたいだ」と、マロンが言いました。「僕、花火の世界に行ってみる」と、ポテトがチカチカと輝く光をくぐりました。「ポテト。どう?」と、奈々ちゃんが聞きました。「うん。奈々ちゃんの顔が、お化けみたいに見える」と、ポテトが言いました。「何言ってるの?ポテトの顔だってお化けじゃん」と、マロンが言いました。「僕も行ってみる」。奈々ちゃんが、次の花火に点火しました。パチパチと星が弾ける音がしました。マロンは、花火の世界への入口をくぐりました。「マロン。どう?」と、奈々ちゃんが聞きました。「僕が子どもだった頃の世界が見える」と、マロンが言いました。
「私も行く!」と、奈々ちゃんも入口をくぐりました。「ねっ?」と、マロンが奈々ちゃんに言いました。「本当だ。私が今よりも小さかった頃の世界が広がっている。私ね。毎年、元気だったお父さんと一緒に花火をしたの。そう、ちょうどこんな感じだったわ」と、奈々ちゃんが言いました。火薬の燃える懐かしい匂いが、目にしみました。花火の炎に照らされて、誰かの影が砂浜に大きく映りました。「あっ、お父さんの影だ!」と、マロンが言いました。お父さんの影は奈々ちゃんにそっと寄り添い、新しい花火に火を点けました。
チカチカパチパチと、赤や青や黄色の星が飛び散りました。お父さんの影が、そっと奈々ちゃんの肩に手をかけました。「わあ、きれいね。お父さん。大きな花火は、お父さんと一緒じゃなきゃできないもんね」と、奈々ちゃんがお父さんに声をかけました。マロンとポテトは黙って、奈々ちゃんの花火を見つめていました。ポテトがマロンの肩を押しました。「マロン。とりあえず、花火」。マロンは、次の花火を奈々ちゃんの手に渡しました。「奈々ちゃん。お父さんの影が消えちゃう前に、とりあえず、花火」。1本、また1本。花火の世界への入口の炎が、夜遅くまでパチパチと弾けました。
ザザー、ザザー♪と、波の音が聴こえてきました。ザザー、ザザー♪と繰り返し、海の鼓動を伝えてきます。「星は見えないよ?」と、マロンが言いました。「でも、海に着けば、見えるかも知れないじゃん」と、ポテトが言いました。「とりあえず…」と、2匹は歩きました。
「海だ!」と、ポテトが叫びました。空は雲っていても、波間には、キラキラした時間が光っていました。「ほら、見えるじゃん」と、ポテトが言いました。「だって、あのキラキラは星じゃあないよ」と、マロンが言いました。「何でもいいの。とりあえず、キラキラしていてきれいだから」と、ポテトが言い返しました。
マロンが波打ち際で、チカチカと輝く光を見つけました。「あれは何だろう?」。「星かなあ?」と、ポテトが言いました。「なわけないじゃん」「じゃあ、何?」「花火?」。
暗闇を透かして見ると、黒い影が一人で線香花火をしていました。「わあ、とりあえず、花火じゃん!」と、2匹は駆け出しました。パチパチと火花がはじけて、砂の上に小さな火の玉が落ちました。「ふー」と、ついたため息の音は、残念ながら2匹には聞こえませんでした。「花火、花火!」と、2匹は走りました。
黒い影が振り返りました。「奈々ちゃん?」と、マロンが気づきました。「奈々ちゃんだ」と、ポテトも大きな声で言いました。「マロンにポテト?」と、奈々ちゃんが振り向きました。2匹はとりあえず奈々ちゃんの元まで走りました。奈々ちゃんはマロンとポテトの頭を思い切りなぜてくれました。「私ね。今日の花火は一人ぽっちかなって思ってたんだ。マロンとポテトが来てくれたら、元気百倍ね」と、奈々ちゃんは少し元気になったみたいでした。「じゃあ、とりあえず花火ね」。
奈々ちゃんがマッチをこすってオレンジの炎を点しました。オレンジの炎は細い線香花火に移り、白い煙と一緒に、見たこともない世界が広がりました。「わあ、何だか別の世界への入口みたいだ」と、マロンが言いました。「僕、花火の世界に行ってみる」と、ポテトがチカチカと輝く光をくぐりました。「ポテト。どう?」と、奈々ちゃんが聞きました。「うん。奈々ちゃんの顔が、お化けみたいに見える」と、ポテトが言いました。「何言ってるの?ポテトの顔だってお化けじゃん」と、マロンが言いました。「僕も行ってみる」。奈々ちゃんが、次の花火に点火しました。パチパチと星が弾ける音がしました。マロンは、花火の世界への入口をくぐりました。「マロン。どう?」と、奈々ちゃんが聞きました。「僕が子どもだった頃の世界が見える」と、マロンが言いました。
「私も行く!」と、奈々ちゃんも入口をくぐりました。「ねっ?」と、マロンが奈々ちゃんに言いました。「本当だ。私が今よりも小さかった頃の世界が広がっている。私ね。毎年、元気だったお父さんと一緒に花火をしたの。そう、ちょうどこんな感じだったわ」と、奈々ちゃんが言いました。火薬の燃える懐かしい匂いが、目にしみました。花火の炎に照らされて、誰かの影が砂浜に大きく映りました。「あっ、お父さんの影だ!」と、マロンが言いました。お父さんの影は奈々ちゃんにそっと寄り添い、新しい花火に火を点けました。
チカチカパチパチと、赤や青や黄色の星が飛び散りました。お父さんの影が、そっと奈々ちゃんの肩に手をかけました。「わあ、きれいね。お父さん。大きな花火は、お父さんと一緒じゃなきゃできないもんね」と、奈々ちゃんがお父さんに声をかけました。マロンとポテトは黙って、奈々ちゃんの花火を見つめていました。ポテトがマロンの肩を押しました。「マロン。とりあえず、花火」。マロンは、次の花火を奈々ちゃんの手に渡しました。「奈々ちゃん。お父さんの影が消えちゃう前に、とりあえず、花火」。1本、また1本。花火の世界への入口の炎が、夜遅くまでパチパチと弾けました。
Posted by AKG(秋葉観光ガイド)の斉藤さん at 04:54│Comments(0)
│空飛ぶコーギー