森の童話館「空飛ぶコーギー」

　「飛んで、飛んで！ねえ、早く飛んで！」と、ポメラニアンのポテトが跳びはねました。「傘の柄は両手でしっかりもたないとダメ。危ないよ。ポテチは落ち着きがなさ過ぎる」と、コーギーのマロンは言いました。「手じゃあなくて、前足ね」と、トイ・プードルのキャンディーが上げ足を取りました。ポテトは、空飛ぶコウモリ傘の柄を握り締めました。５匹のコウモリたちが、ヒラヒラと飛び始めました。ポテトの体が浮き上がりました。「飛行マナーを守って、周りに気をつけてね！」と、マロンが声をかけました。

　ポテトが落ち着きなく空を飛びました。「わあ、どこに行こうかな？」と、キョロキョロと見回しました。雲の上は、妖精たちの保育園でした。ポテトみたいな子供の妖精たちが、雨を降らせる準備をしていました。「はい。一列に並んで！」と、先生の妖精が言いました。運動場の隅っこの水飲み場から水を汲み、行列を作ってバケツを運んでいました。妖精たちの中には、バケツいっぱいの水を、汗をかきかき運んでいる子もいるにはいましたが、少ししか入っていないバケツをいかにも重たそうにチャッポンチャッポン運んでいる子や、空のバケツを頭に乗せて歌っている子や…。「わあ、いい加減な妖精たち。それにしても、もうすぐ雨かな？」と、ポテトが言いました。と、突然、コウモリたちが騒ぎ始めました。

　「わあ、危ない！」。空飛ぶコウモリ傘は、上に行ったり、下に来たり。コウモリたちは、勝手な方向に飛び始めてしまいました。「ちょっと、待ってよ。さっきまで、ちゃんと飛んでたじゃん」と、ポテトが言いました。「雨だなんて言ったらダメだよ」と、寂しがり屋のリンドバーグが、『スピリット・オブ・セントルイスⅡ』にぶら下がって、ヒラヒラとやって来ました。「コウモリたちは、雨が大嫌い。だから、雨って聞いただけで、逃げ出しちゃうんだ」。「ウソ。雨が嫌いなコウモリ傘なんて、信じられない」と、ポテトが言いました。

　「雨は当分、降りそうにないね。今日は傘を干すには最高の天気だ」と、ポテトが言いました。コウモリたちは、再びちゃんと飛び始めました。ポテトはペロッと舌を出しました。「合図するまで、水をかけていけません」と、先生の妖精が言いました。そんな声を聞いても、雲の上の妖精たちの中には、誰かれ構わず水掛け遊びを始めてしまう子や、濡れた手をシャツの裾で拭いている子や、水鉄砲にいっぱい水を詰め込んで、ニヤリと笑う子や…。辺りはすっかり大混乱。「わあ、いたずら好きな妖精たち。まったく、言うことを聞かないね」と、ポテトが言いました。

　妖精たちの中には、大きな声でおしゃべりをする子や、雲の上で泥んこ遊びをする子や、とうとうあたり構わずに走り回る子もいました。周りの迷惑を考えずに公園の広場を駆け回るポテトや、病院や電車の中で騒ぎ出す人間の子供たちと同じでした。「はい。一列に並んでください」と、先生の妖精が言っても、子供の妖精にはちっとも効き目があるようには思えません。

　「どうして、周りの迷惑を考えないんだろう？」と、ポテトは思いました。そして、とうとう「こら！一列に並んで！ちゃんとルールやエチケットを守れ！」と叱りつけました。びっくりした拍子に泣き出す妖精もいました。水がいっぱい入ったバケツをひっくり返してしまう妖精もいました。叱られた理由も分からず「ゴメンナサイ」をする妖精もいました。ポテトに叱られた妖精たちは、一列に並びましたが、ひっくり返ったバケツから、一気に雨が降り始めました。

　「雨だ、雨だ」と、今度はポテトのコウモリたちが、子供の妖精たちと同じように、勝手に飛び始めました。「こら！コウモリたち！君たちも最後までしっかり飛べ！」と、ポテトが大きな声で叱りました。コウモリたちは、ビクッとしました。「ポテト。君は正しいよ。コウモリは子供と同じ。何も言わなければ、勝手気ままに振舞いたがる。叱る時には、叱らないと、いいコウモリにはなれないね」と、リンドバーグが言いました。「ポテトは、優秀なコウモリ傘パイロットになれそうだ」。

　名パイロットの素質十分のポテトは、公園を見下ろしました。公園では、振り出した雨から、マロンとキャンディーが慌てて逃げ出しているのが見えました。マロンとキャンディーは慌てた勢いで、ゴッツンコをしていました。「こら！公園は、勝手に走り回るな！」と、ポテトが叱りました。マロンとキャンディーが声のする方を見上げました。「マロン。君には落ち着きが足りない。周りの迷惑を考えて行動するように…」と、ポテトのコウモリ傘が、少し大人になって降りてきました。