折りづる
暑い暑い夏の日です。リナちゃんは公園の木陰で折り紙をしていました。「リナちゃん。何しているの」と、ポメラニアンのポテトがのぞいてみました。リナちゃんは空色の色紙を膝の上に広げ、「まず、ここを三角に折るでしょう。こっちも同じように折って…」と、折り紙をしていました。「ねえ、リナちゃん。何してるの?」。「ポテトちゃん。リナはね、折り紙でツルを作っているの」「ふーん。空を飛ぶツル?」「そう。でも、折りづるは飛ばないわよ」と、リナちゃんが答えました。「ポテトちゃんも折ってみる?」。
ポテトは赤い色紙を選びました。「まず、ここを三角に折って…」と、リナちゃんのマネをしてみました。「あらら?ポテトちゃん、上手に折れそうね」と、リナちゃんが驚きました。ポテトは少し嬉しくなりました。「こっちも同じように…」と、次を折りました。羽を折るところは難しかったのですが、ゆっくりと時間をかけて折りました。「こことここを合わせて、こっちの手でしっかりと押さえます」と、リナちゃん先生が教えてくれました。「こことここを合わせて…」と、ポテトは前足で色紙をトントンして折りました。「首と尾羽は尖らせるのよ」と、リナちゃんが折ってみせました。ポテトもマネをしてみましたが、「でも、僕、できない。リナちゃん、続きを折って!」と、ポテトがリナちゃんに頼みました。「じゃあ、ポテトちゃんには、新しい紙をあげる」と、リナちゃんが黄色の色紙をくれました。「こうしてね。クチバシを折ってね、羽を広げて完成!」。ポテトは次のつるを折り始めました。
フンフンフン♪と鼻歌まじりに、コーギーのマロンがやってきました。「ポテチ。何してるの?」と、マロンがのぞき込みました。「折り紙」。「まさか?折り紙する犬って、初めて見た」と、マロンが言いました。「僕もやってみようかな」。「はい、マロンちゃんにもあげる」と、リナちゃんが、ピンクの色紙をくれました。「マロン。いい?よく見ててよ。ここを三角に折って…」と、ポテトがお手本を見せました。「簡単じゃん。ここを三角でしょう?」と、マロンが折ろうとした色紙がクチャクチャになりました。「あれ?」。「マロン。もっと落ち着いて、慎重にしないと、折れないよ」と、ポテトが言いました。
「リナちゃん。私の折ったつるも混ぜてね」と、コンビニで働いているユイさんがやってきました。「あら、ポテトとマロンもお手伝い?」。「僕は、ユイさんに教えてもらうから、いい。ユイさん、教えて!」と、マロンがお願いしました。「マロン。いい?よく見ててよ。まず、ここを三角に折って…」と、ユイさんもポテトと同じことをしました。マロンが少し慎重に折ろうとしたのですが、色紙はまたクチャクチャになってしまいました。「マロンちゃんには、ムリかな?」と、ユイさんが首を傾けました。「ムリじゃない!」。
マロンは新しい色紙をもう1枚もらいました。「ここを三角に…。三角って?」と、マロンが言いました。「マロン。三角を知らないの?」と、ポテトが言いました。「サンドイッチの形」。「ああ、そうか。サンドイッチの形って言ってくれれば、分かったのに」と、マロンが紙を折りました。「マロン。こことここをきっちりと合わせないと…」と、ポテトが言いました。「僕、やーめた」と、マロンは折りづる作りを諦めました。「リナちゃん。僕にもできることない?」。
「マロンちゃんは、この折りづるを糸に通して」と、リナちゃんが言いました。「それなら、僕にもできそう」と、マロンは、糸を通した針で、折りづるを「一つ、二つ、三つ…」と、つなぎました。リナちゃんとポテトとユイさんが折りづるを折って、マロンが長くつなげて、たくさんの折りづるが束になりました。「できた!」と、リナちゃんが叫びました。「これで、千羽そろったのよ」と、ユイさんが言いました。「千羽?」。
「あとは、修平さんにお願いしましょう」と、ユイさんが言いました。「修平おじいさん?」と、マロンとポテトが振り向くと、そこには修平おじいさんが、たくさんの折りづるを持って立っていました。「マロンとポテトも手伝ってくれたのかい?」と、修平さんが言いました。「この千羽づるは、広島と長崎に送るからね」。「そうか?『原爆の日』だったんだ」と、マロンが言いました。入道雲がモクモク昇る夏空に、千羽づるが高く掲げられました。「マロン。さっきのクチャクチャは?」と、ポテトが聞きました。「知らないよ」と、マロンは答えましたが、実はマロンが作ったクチャクチャも、3羽だけ、マロンの心と一緒に、こっそり混ぜられていました。
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