カッパ沼はどこ?
「カッパ沼?どこ、それって?」と、ポメラニアンのポテトが言いました。「どこって?この間、一緒に行ったじゃん。ほら、牛みたいに大きなザリガニがいて…」と、コーギーのマロンが答えました。「牛みたいに大きなザリガニ?そんなの、いるわけないじゃん」「子どもだった頃の修平おじいさんもいて…」「修平おじいさんが子どもの頃?何十年前のこと?」と、ポテトが言いました。「そうだよねえ?」と、マロンも何だか自信がなくなってきました。
「あれは、どこだったのかな?誰だったんだろう?」と、マロンは考えました。「僕たちは確かに牛みたいに大きなザリガニの尻尾を見たはず。でも、ポテチは覚えていないって言うし、修平さんが子どものわけないし…」。でも、マロンの小屋には、あの時に折れた竿が今でもちゃんとありました。「おかしいなあ?気のせいだったのかなあ?」と、マロンは気になって気になって仕方ありませんでした。「そうだ。僕、もう一度行ってみよう」。マロンは竿を担いで出かけることにしました。
「確か、こっちだったはず」と、マロンは歩きました。ススキが茂る原っぱを過ぎ、やがてアシの原に出ました。背の高いアシの間を通り抜けると、沼の水面が光っていました。「そう、そう。ここだったよね。それで、あそこに子どもの修平さんがいたんだ」と、マロンが見ると、「あっ、いる!」。麦わら帽子をかぶってニコリと笑う白シャツの少年が立っていました。「やあ、マロン。必ず来ると思ってたよ」と、少年は川の言葉で言いました。「修平おじいさんですよね?」と、マロンが聞きました。少年は「ああ、あの日はね」と、話を始めました。
「あの日の僕は、70年前の修平さんだったけど、今日の僕もそうだとは言えない。僕たちは今、マロンの心の中の世界にいるんだよ。マロンは、この沼がどこにあると思う?」と、少年が聞きました。「えーと、確か、ザリガニ池から奥に入って、ススキの原っぱを抜けて…」と、マロンが答えました。「ハッハッハ。あのザリガニ池を過ぎたところから、マロンの心の世界に入り込んだのに気づかなかったようだね。この沼は、マロンの心の中にあるだけで、マロンたちが住んでいるあの街のどこを探しても、見つからないんだよ。この沼にいる僕は、マロンが願った人になる。ただ、それだけさ」と、少年が言いました。
「あの牛みたいに大きなザリガニは?」と、マロンが聞きました。「そう。あのザリガニもマロンの心が作ったザリガニ。誰でもみんな、自分の心の中に自分だけの世界を持っているのに、それに気づいていないだけさ。マロンは、心の中の世界を信じてそこを訪ねたというわけ」と、少年が言いました。「ほら、向こうからも誰かがやってきた」。少年の指差す方を見ると、マロンとよく似たコーギーがニコリ笑いながら近寄って来ました。
「君は誰?」と、マロンが聞きました。「私の名前は、マロン。10歳のウエルッシュ・コーギーの♂」と、その犬は答えました。「つまり、大人になったマロンだよ」。「ええ、大人になった僕なの?」。「マロン。この沼では、時間が違うってことはもう知っていたよね」と、少年が言いました。「で、大人になった僕が、ここで何をしてるの?」と、マロンが聞きました。「何って?あの牛みたいに大きなザリガニ捕りに決まってるだろう?」と、もう1匹のマロンが答えました。「そうか。僕は大人になっても、今のままなんだ」と、マロンは少しホッとしました。「さあ、ザリガニ捕りだ!」。
少年の笑顔が言いました。「大人になった自分と会った感想はどう?」。「うん。そんなことより修平さん。ザリガニ釣り!」と、マロンが言いました。「じゃあ、今日の僕も70年前の修平おじいさんだね」と、修平少年が言いました。「カッパ沼はマロンの心の中の世界だから、マロンの心が変わらない限り、いつまでもここにこうしてあるんだよ」。「さあ、今日こそ釣るぞ!」と、大人になったマロンが竿を振りました。「よーし。負けないぞ」と、マロンも言いました。「見て!牛みたいに大きなザリガニが、あそこに!」と、修平少年が沼を指差しました。「いる、いる」と、マロンも竿を振りました。「絶対に、僕が釣るからね!」。
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