うるさい!
ジージー♪ミーンミーン♪シャゴシャゴ♪と大騒ぎの朝でした。「ガオガオ!うるさい!」と、コーギーのマロンが怒鳴りました。「『うるさい!』って言うな!僕らは8年も土の中にいて、やっと外に出てきたんだよ。慣れない世界で、周りは敵ばかり。鳥だってアリだって僕らを狙っているし、人間の子どもや犬まで僕らを捕まえようとしている。必死で生きているんだから『うるさい!』だなんて言わないでくれ!ジージージー♪」と、ますます大きな声で鳴き出しました。
「ああ、もう、うるさくて眠れないよ」と、朝寝坊のできなかったマロンは、セミの声が聞こえないところを探して歩きました。ミーンミーン♪シャゴシャゴ♪と、歩道を歩いても大騒ぎです。おまけに、どこまで逃げてもジージー♪カナカナ♪と大騒ぎはマロンを追いかけてきました。「うるさい!」と、マロンは走って走って、気が付いたらいつもの公園に来ていました。もちろん、公園だって大騒ぎ。ジージー♪ミーンミーン♪シャゴシャゴ♪と、風に乗って大騒ぎが渦巻くようでした。
「ふう。どこに逃げればいいんだろう?」と、マロンはもう疲れてしまいました。日向はジリジリと焼け付くような暑さだし、日陰に入ればセミの大騒ぎ。土のアチコチにセミが出てきた穴が開き、ゴソゴソと穴から這い出す新米幼虫もいっぱいいます。「うるさい!」と言ってもムダだと分かっていても、「うるさい!」と、マロンは何度も言ってしまいました。「もう、頭が痛くなっちゃう」。
クスノキの下に、見慣れた修平おじいさんが立っていました。「マロン。どうしたんだ?」。「もう、セミがうるさくて、うるさくて、眠れない」と、マロンは言いました。「今日はセミ捕りをしないのか?」と、修平さんが聞きました。「それどころじゃあないよ。もう頭が割れそう」「ハッハッハ。まあ、そう言うな。考えてごらん。セミが鳴くのは木があるからじゃないか。セミの声がうるさいからと言って逃げ出すなら、木や緑がない世界に行くしかないだろう?そんな世界でいいのかな?だから、セミがうるさいくらいに鳴いているっていうことは、幸せなことさ」「でも、ホントにうるさいけどね」と、マロンは言いました。
ジージー♪ミーンミーン♪シャゴシャゴ♪カナカナ♪と、セミの大騒ぎは続きました。高校生が白球を追っている間も大騒ぎ。カキ氷屋さんが、シャカシャカ氷を削っている間も大騒ぎ。「うるさい!」と、マロンがピョンピョン跳ねて叫んでも、「うるさい!」と、リナちゃんが足をバタバタさせて叫んでも、ジージー♪ミーンミーン♪シャゴシャゴ♪カナカナ♪と続きました。花火師さんが打ち上げの準備をしている間も大騒ぎ。魔女のキャサリンがパジャマの洗濯をしている間も大騒ぎ。「うるさい!」と、マロンが虫捕り網を振り回して叫んでも、「うるさい!」と、キャサリンが空飛ぶ箒を振り回して叫んでも、ジージー♪ミーンミーン♪シャゴシャゴ♪カナカナ♪と鳴きやみません。
「まあまあ、マロン。外の世界に出てからのセミたちの命はたったの2週間。その間を必死で生きているんだから…」と、修平おじいさんが言ってる間も、ジージー♪ミーンミーン♪シャゴシャゴ♪カナカナ♪と騒ぎ続け、「ええ?何?」と、マロンには修平さんが言っていることが聞こえません。「だから、セミの命は…」ジージー♪ミーンミーン♪シャゴシャゴ♪カナカナ♪。とうとう修平さんだって「うるさい!」と怒鳴ってしましました。
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