泣き虫ポテト
ポテトは空を見上げて、グッと涙を堪えていました。「ポテチって、すぐ泣くからなあ」と、コーギーのマロンがため息混じりに言いました。「たかがジャンケンに負けたぐらいで…」。マロンとポテトは、どちらが先にブランコに乗るかを決めるために、ジャンケンをしたのでした。
ポメラニアンのポテトは、泣き虫です。「チビ」と呼ばれれば泣くし、足を踏まれれば泣くし、虫に刺されれば泣くし、雨に濡れただけでもすぐに泣きます。「ポテチ。先に乗ってもいいよ。僕が押してあげる」と、マロンはポテトに順番を譲りました。ポテトは鼻をすすり上げながら、ブランコに座りました。その背中をマロンがそっと押してあげます。「泣き虫だね」と、マロンが言いました。「僕、泣き虫じゃあないもん」と、ポテトが言いました。でも、そう言いながらも、前足で右の目の涙をさっと拭きました。
「ああ、ポテチ、また泣いた!」と、マロンが言いました。今度は、どうしたの?公園の池を覗き込んでいる時に、マロンが後から押したために、池の水に両方の前足が濡れてしまっただけのことでした。「夏なんだから、別に冷たくもないのに…。足が濡れただけじゃん。泣かないでよ」。マロンがポテトの前足を拭いてあげました。それでも、ポテトはメソメソをやめませんでした。「泣き虫ポテト。ケロケロ♪」と、マロンの頭に乗ったケロちゃんも笑っていました。ケロちゃんの声を聞いて、池のカエルたちが一斉に、「ケロケロ♪泣き虫ポテト」と、はやし立てました。公園のハトたちも「クック、ククク♪泣き虫ポテト」と、騒ぎ立てました。ハトたちの声を聞いたカラスも「カアア、カア♪泣き虫ポテト」と、街中に聞こえる大声で叫びました。「エーン!」。マロンがせっかくなだめていたのに、とうとう、泣き虫ポテトが、大声を上げて泣き出しました。
公園の木々の葉っぱが、ポテトの泣き声で激しく揺れました。「エーン!」。公園の遊具が、ポテトの大声で、ガタガタユサユサと揺れました。通り過ぎる車もバスも、電車もヘリコプターも、思わず耳をふさぎました。古い箒にまたがって空を飛ぶ、パジャマを着た魔女のキャサリンも「まあ、すごい声」と、耳をふさぎました。
雲の上では、カミナリさまのお父さんが、居眠りから目を覚ましました。「誰か、カミナリの太鼓を叩いたな?」と、勘違いしたようです。「おーい。雨を降らす用意をして!」と、カミナリさまは、子どもたちに言いました。カミナリの子をもたちが、バケツに1杯ずつの雨粒を運んできました。「エーン!」。ポテトの大声が、またまた聞こえました。「それ!雨を降らせろ!」。
2匹のいる公園の池にも、突然、雨粒が落ちてきました。「わあ、夕立だ!」。池の水面には、雨粒の波紋が睡蓮の花のように広がりました。「エーン!」。カミナリさまのバケツの雨粒が、街中を濡らしました。
「ポテチ。泣くのをやめてよ」と、マロンがなだめました。「ポテト。泣くのをやめてよ。ケロケロ♪」と、ケロちゃんも言いました。ケロちゃんのマネをした、池中のカエルが「ポテト。泣くのをやめてよ。ケロケロ♪」と鳴きました。「僕、泣き虫なんかじゃあない」と、ポテトがしゃくり上げながら、泣くのをやめました。「そうそう。ポテトは泣き虫なんかじゃあないよ」と、マロンが言いました。「ポテトは泣き虫じゃあない。ケロケロ♪」と、ケロちゃんも言いました。ケロちゃんのマネをして、池中のカエルが鳴きました。
雲の上では「さあ、そろそろ、梅雨明けにしようか?」と、カミナリさまのお父さんが言いました。「わーい。梅雨明けだ!夏休みだ!」と、カミナリさまの子どもたちが、バンザイをして駆け出しました。マロンたちのいる公園の空に、七色の虹が架かりました。「梅雨明けかな?」と、マロンが言いました。「僕、泣き虫なんかじゃあないもん」と、ポテトが、もう一度すすり上げました。
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