梅雨明け?

AKG(秋葉観光ガイド)の斉藤さん

2021年05月30日 05:55

 コーギーのマロンは、猛烈な暑さでヘロヘロでした。「暑い、暑い。ハアハア。梅雨は明けたの?」と、舌を垂らして歩いていました。葉っぱの陰に、カタツムリのおじさんがいました。「暑い、暑い。梅雨は明けたの?」と、カタツムリも言いました。「ほら、見てごらん。タチアオイのつぼみがてっぺんまで開くと梅雨明けだって言うけど、今年も、もう咲いたがな」。ピンクの大きな花びらが、熱い陽射しをドンと受けていました。

 「暑い、暑い。梅雨は明けたの?」と、ポメラニアンのポテトがやって来ました。「雨の季節には、洗濯物が乾かなくて困っていたよ。カビも生えるし。待ち遠しいよね。梅雨明け」。「梅の実は、熟したかな?」と、カタツムリのおじさんが聞きました。「梅の実が膨らむ頃に梅雨入りして、熟す頃に梅雨が明ける。昔からの言い伝えじゃ」。ポテトが見上げた梅の木には、宇宙から見た地球のような梅の実がたわわに実り、うす緑から黄色に、産毛の生えた肌の色を変えていました。

 「梅雨が明けると、真夏だね」と、マロンがヘロヘロと言いました。「僕は暑さに弱いけど、梅雨のジメジメよりもマシかな?」。「そういえば、僕、昨日、セミが鳴いているのを聴いたよ。セミって、もう梅雨が明けたと思っているのかなあ?」と、ポテトが言いました。「さあ、どうじゃろう?」と、カタツムリが言いました。「雷が鳴れば、間違いないのじゃが…」。「ええ、雷?」と、ポテトが心細そうな声を出しました。

 「僕、見てくる」。マロンがヘロヘロと空に飛び上がりました。マロンは舌を垂らしたまま、空を飛び、雲の上まで登りました。雲の上には、雷様の子どもたちが遊んでいました。子どもたちはマロンを見つけ、面白半分、水鉄砲で水をかけてきました。「ガウガウ!」と、マロンは吠えました。「エーン!」。水鉄砲を持った子どもの一人が泣き出してしまいました。その泣き声を聞いて、お母さん雷が出てきました。「まあ、どうしたの?大きな声で泣いたら、梅雨明けかと思われちゃうわよ。おや、お客さん?雲の上まで犬のお客さんとは、珍しいわね」。マロンはヘロヘロと聞きました。「あの、今日の暑さは、まるで真夏みたいですけど、もう、梅雨明けでしょうか?」。

 「何?梅雨明けだって?」と、マロンの声を聞きつけて、お父さん雷が出てきました。「いや、あまりに暑いので、そろそろ梅雨明けかな?と思いまして…」と、マロンが言いました。「今日は、何日だ?」と、雷様が聞きました。「7月12日」と、マロンがヘロヘロと答えました。「梅の実はどうだ?」「もう、熟していました」「タチアオイの花は、どこまで咲いたかな?」「もう、てっぺんまで開いています」。「うーん」と、雷様は唸りました。「うーん」と、マロンも唸りました。「うーん」と、子どもたちも唸りました。「セミはどうだ?月見草は?」と、雷様は聞きました。「じゃあ、まだ梅雨明けは決まってないんですね?」と、マロンがヘロヘロと聞きました。「うーん」と、雷様は唸ったきり、返事をしませんでした。

 マロンはヘロヘロとポテトたちのところに降りました。「まだらしいよ」。「うーん」と、カタツムリのおじさんが唸りました。「うーん」と、ポテトも唸りました。「もう、梅雨は明けたの?」と、マロンには何を聞いても、何を言っても、だらしなく舌を垂らし、答えはすべてヘロヘロでした。

関連記事