魔法のボタン

　リナちゃんは、何だか悲しそうな顔をしていました。それは、リナちゃんのお気に入りのシャツの大好きなボタンが一つ、なくなってしまったからです。公園の砂場で「空飛ぶコーギー」のマロンやポメラニアンのポテトたちと遊んでいた時、ふと気づいたら、ピンクのシャツの上から３番目のボタンだけがなくなっていました。「ねえ、マロン。ポテト。私のボタンを探して？」と、みんなで探してみたのですが、砂場の砂に埋もれてしまったのか、どこにも見当たりません。「ママ。私のシャツの大好きなボタンが一つなくなっちゃったの」と、リナちゃんは言った後、ママの膝に顔を押し付けて泣き出してしまいました。

　マロンとポテトは顔を見合わせました。「どこに隠れてているんだろう？」「どこに行っちゃったのかなあ？」と、二匹は目と目で話しました。「前のと同じボタンにしてね？」と、リナちゃんに言われ、リナちゃんのママは、新しいボタンを探しました。でも、大き過ぎたり小さ過ぎたり、色が違ったり形が違ったり…。同じボタンがありません。「困ったわね」と、ママは言いました。ママは考えました。「リナちゃん。同じボタンはないけど、特別のボタンをつけてあげるからね」と、ママが言いました。「えっ？特別なボタンって、どんなボタン？」と、リナちゃんは泣きながら聞きました。「ほら、これ」と、ママは大きな茶色のボタンをリナちゃんに見せました。「ママ。それって、大き過ぎない？」と、リナちゃんが聞きました。「このボタンはね、私がリナくらいだった頃、大好きなコートに付いていたボタンなの。でも、大きいだけのボタンじゃあないの。これはね、魔法のボタンなの」と、ママは少し声を小さくして言いました。「内緒だけどね。夜になると分かるわ」。リナちゃんは、ママの言葉を信じて、泣くのをやめました。

　翌日、リナちゃんが公園の砂場にやってきました。「マロンちゃん。ポテトちゃん」と、リナちゃんが元気に声をかけました。リナちゃんは、昨日と同じお気に入りのピンクのシャツを着ていました。ただ、昨日なくした上から３番目のボタンだけが、他のボタンと違い、大きな茶色のボタンでした。「このボタン、すごいでしょう？」と、リナちゃんが言いました。「これって、ママが付けてくれた魔法のボタンなの」。

　「魔法のボタン？」。マロンとポテトは顔を見合わせました。「昨日の夜ね…」と、リナちゃんはベッドに入った後に起きた出来事を話してくれました。

　リナちゃんがベッドに入り、電気を消してママが出て行った後、壁に掛けられたリナちゃんのシャツの上から３番目のボタンが、光り出したというのです。ボタンは、光ったり光るのをやめたり、まるでまたたくみたいに点いたり消えたりしました。リナちゃんは布団をずらし、薄目を開けてのぞいてみました。シャツの３番目の茶色の大きなボタンが、リナちゃんの顔のすぐ前で、ニコリと笑っていました。「リナちゃん、怖がらないでね。僕は魔法のボタン。一つだけ夢を叶えてあげるよ」と、ボタンは言いました。リナちゃんは、怖がるどころか、ニコリと笑顔を返しました。「本当に魔法のボタン？ママが言った通り？」と、リナちゃんが聞きました。「じゃあね。リナがなくしたボタンを見つけて？」と、リナちゃんがお願いしました。「明日、公園に行って、砂場の砂に『ボタン』って指で書いてごらん。どこでもいいよ。必ず見つかるから」と、魔法のボタンは言いました。「それから、そのボタンはリナちゃんのお守りボタンだから、大事にしてね」。いつの間にか、魔法のボタンはリナちゃんのシャツの上から３番目に戻り、またたくみたいに点いたり消えたりしました。

　リナちゃんはそう話すと、砂場の砂に『ボタン』と書いてみました。マロンとポテトは、じっと見つめました。『ボタン』の『ン』の最後を書いた時、リナちゃんの指に何かが当たりました。「あれ？」と、リナちゃんが何か当たった砂場の砂を掘ってみました。マロンとポテトもリナちゃんの顔に、顔を近づけました。「リナのボタン！」と、リナちゃんが昨日なくしたシャツのボタンを拾い上げました。「こんなところにあったんだ」と、リナちゃんが言いました。マロンとポテトも驚きました。昨日探したときには、どうしても見つからなかったあのボタンです。「リナのお守りボタン！」と、リナちゃんがボタンを摘み上げた時、上から３番目の魔法のボタンが言いました。「たった一つの小さなボタン。でも、大好きなボタン。いつまでも大事にしてね。リナちゃんのママが、僕を大事にしてくれたみたいに」。

　リナちゃんのシャツの上から３番目の魔法のボタンが、いつの間にか昨日までの大好きなボタンに代わっていました。「リナちゃん、良かったね」と、マロンとポテトが顔を見合わせました。「魔法のボタンさん。ありがとう」。