ドレミファミレド♪
「こんなところにカエルさんがいる」と、1年生になったリナちゃんが玄関から出てきて言いました。外は、雨の朝でした。「カエルさん、雨に濡れてかわいそう」と、リナちゃんは、自分の青い傘をアマガエルの上に差しかけました。「リナちゃん。ちゃんと傘を差していくのよ」と、家の中からママの声が聞こえました。「はーい!」と、リナちゃんは返事をして、両手で頭を押さえて駆け出しました。
アマガエルは困ってしまいました。久しぶりの雨を喜んで出てきたのに、リナちゃんの傘の下では、雨を楽しむことができません。「誰か、代わってくれないかな?」と、待っていました。ケロケロと誰かを呼びました。ケロケロとときどき傘の外に出て空をながめてみました。暖かい5月の雨が、気持ちよく降りかかりました。そこに、カタツムリのおじさんがやってきました。「カタツムリさん!」と、アマガエルが呼びました。カタツムリはゆっくりゆっくり傘の下にやってきました。「この傘は、リナちゃんの傘だね?」と、カタツムリは言いました。「うん。僕が濡れたらかわいそうだって言って、傘を置いて行っちゃったんだ。カタツムリさん、しばらく、ここにいてね」と、アマガエルはピョンピョンと跳ねて、雨の中に飛び出して行ってしまいました。
「さて、困ったぞ。せっかくの雨の日に、ワシだって、そうのんびりとはしていられん」と、カタツムリはのんびりと言いました。「誰か、代わってくれんかな?」と、目がついた角をキョロキョロと動かしました。そこに、ツバメがやってきました。「おーい、ツバメさん!」と、カタツムリが声をかけました。ツバメはせわしなく傘の下にやってきました。「ワシは忙しいから、ワシに代わって、傘の下にいてくれんか?」と、カタツムリはのんびりと言いました。「こ、困ります」と、ツバメが言った時には、カタツムリはノソノソと傘の下から1㌢だけ這い出していました。
仕方がないので、ツバメは誰かが来るのを待ちました。そこに、「空飛ぶコーギー」のマロンが走ってきました。「わあ、濡れちゃう濡れちゃう」と、マロンはリナちゃんの傘の下に雨宿りをしました。そこには、ツバメの先客がいました。「やあ、こんにちは」と、マロンは言いました。「こんにちは、マロン。この傘はリナちゃんの傘だけど、誰かが来るまで、ここにいてやってくれないかな?私は、もう行かなくてはいけないんだ」と、ツバメは羽を震わせて雨の中に飛び出しました。「ええ?僕、困っちゃう。でも、リナちゃんの傘じゃあ、断れないしな」と、マロンが傘の下にいることになりました。
マロンは短い前足にあごを乗せて、伏せのポーズで誰かが来るのを待ちました。いつまで待っても誰も来ませんでした。そんな時、どこからかピアノの音が聴こえてきました。ピアノの音は音符になって、雨粒に混じって踊っていました。「ああ、『カエルの歌』だ」と、マロンは言いました。音符たちは、大きいのや小さいのや黒いのや白いのや、尻尾のあるのや尻尾のないのや…、生きているみたいに傘の下にやってきました。「君たちは、ゲロゲロゲロゲロ、グワァグワァグワァ♪の歌だね?」と、マロンは言いました。「僕が一番初めのドです」と、最初に入ってきた音符が言いました。「私がレ」と、次に来た音符が言いました。「じゃあ、君がミだね?」と、マロンが言いました。ファの音符がやってきたところで、ドとレとミの音符は、並ぶ順番を入れ替えました。「ドレミファミレド♪だ」と、マロンは言いました。傘の下からは、何度も何度も『カエルの歌』が聴こえてきました。
そろそろ、リナちゃんが帰ってくる時間になりました。マロンは傘をくわえて、リナちゃんを迎えに行きました。音符たちも、傘の下で歌いながらついて行きました。向こうから、頭を両手で押さえたリナちゃんが、雨に濡れながら走ってきました。「マロンちゃん。傘に入れて!」と、リナちゃんが傘の下に飛び込みました。「ありがとう。迎えに来てくれたのね?」と、リナちゃんが言いました。「あら?この歌は?」と、リナちゃんが耳をすませました。ドレミファミレド♪のメロディーが聴こえてきました。「カエルの歌が~♪聞こえてくるよ~♪」と、リナちゃんが歌いました。「ゲロゲロゲロゲロ、グワァグワァグワァ♪」のところはマロンも一緒に歌いました。「カエルさんが、オタマジャクシになっちゃったんだ」と、リナちゃんが言いました。ケロケロと朝のアマガエルも帰ってきました。カタツムリのおじさんは、やっと30㌢先を、忙しそうに歩いていました。「ゲロゲロゲロゲロ、グワァグワァグワァ♪」のところは、みんなそろって歌いました。
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