パグのモモちゃん
「ねえ、マロン。ユイさんのところに行ってみない?」と、ポテトが言いました。「ポテチは、あの仔犬が気になっているんだろう?実は、僕もなんだ。うん、行ってみよう」と、マロンも言いました。「私も行ってもいい?」と、キャンディーが聞きました。「もちろん」と、マロンとポテトは答えました。
仔犬は、ユイさんが働いているコンビニの裏にいました。三匹が近づくと、クンクンと鼻を近づけて鳴きました。「可愛いね」と、マロンが言いました。「可愛い、可愛い」と、ポテトは仔犬をペロペロなめました。仔犬も短い尻尾を振りながら、ペロペロとポテトをなめました。「ポテチのこと、覚えているんだね?」と、マロンが言いました。「そうかなあ?」と、ポテトは嬉しそうに言いました。キャンディーの目には、涙が光っていました。「私、自分が捨てられたときのことを思い出しちゃった」と、キャンディーは言いました。「そうか。キャンディーも捨てられたんだったね?」と、マロンが言いました。仔犬がキャンディーの涙をなめました。「わあ、くすぐったいよー」と、キャンディーが仔犬を抱きしめました。「キャンディー。代わって、代わって」と、ポテトが割り込みました。「もう、ポテチ。乱暴しないで!」と、キャンディーが言いました。「キャンキャン、顔が皺くちゃだ」「ワンワン、僕にも皺をひっぱらせて」「ダメ、ダメ。嫌がることはしないで!」。
「やっぱり、来てる」と、コンビニからユイさんが出てきました。「きっと、来ると思ってたわ。パグの名前はモモにしたの」と、ユイさんが言いました。「パグ?」「モモちゃん?」。「この子はね。パグという種類なの。この皺くちゃな顔が可愛いのよね。はい、これが桃の花。女の子らしい名前でしょう?」と、濃いピンクの花が咲く枝を見せてくれました。「女の子なんだ」と、三匹は顔を見合わせました。「目が見えなくても、マロンのことやポテトのことは、覚えていたみたいね」と、ユイさんが言いました。「そうだったね。目が見えなかったんだよね」と、マロンとポテトは、モモの目が見えないことを思い出しました。
「でも、大丈夫よ。私がモモの目の代わりをしてあげるから。何も心配ないわ」と、ユイさんが言いました。モモがマロンのそばにやってきました。マロンのお腹の辺りに顔を寄せて、チューチューと吸い始めました。「あれ?くすぐったいよー」と、マロンが言いました。「お腹がすいているんじゃあない?マロンのおっぱいを吸おうとしているんだわ」と、キャンディーが言いました。「マロン。おっぱい、あげなよ」と、ポテトが言いました。「ムリだよ」と、言いながらも、マロンはモモのしたがるようにしておきました。「はい。ミルク」と、店長も出てきました。店長はお皿にミルクを注ぎました。ユイさんがモモはマロンから離し、モモはピチャピチャとミルクをなめ始めました。マロンは少しだけママになったような気分でした。
さんざんモモと遊んだあと、三匹は神社に行ってみました。神社の境内にも、ピンク色の桃の花が咲いていました。「この間の仔犬は、元気にしてる?」と、お社の前の石の犬が、マロンに聞きました。「はい。元気にしています。とても可愛い女の子で、名前はモモになりました」と、マロンは神様の言葉で答えました。「まあ、モモっていうの?いい名前ね」と、左の狛犬が嬉しそうに言いました。「目は相変わらず見えないのかい?」と、右の狛犬が心配そうに聞きました。「はい。でも、ユイさんが、モモの目の代わりをしてくれるって。安心してください」と、マロンは答えました。「そう。ユイさんなら安心ね」と、左の狛犬が言いました。「マロン。仲良くしてあげてね」と、右の狛犬が言いました。「はい。もちろんです。誰にだって、捨てられた犬にだって、幸せに生きる権利はあるんですから」と、マロンは力強く言いました。キャンディーとポテトには、マロンが話す神様の言葉は分かりませんでしたが、マロンが言っていることは、分かったような気がしました。
「マロン。今度はモモも連れて来ようね?」と、キャンディーがガランガランと鈴を鳴らしました。「石の犬が、モモちゃんのパパとママなんだよね?」と、ポテトが言いました。「モモが元気で大きくなりますように」と、三匹は目をつぶって小さな前足を合わせました。
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