魔女のフリーキック

AKG(秋葉観光ガイド)の斉藤さん

2021年05月05日 04:27

 0対0で前半を折り返し、後半開始早々の6分。JAPANはゴール前、絶好の位置でのFKのチャンスです。そこで、ジーコはアップを命じていた魔女のキャサリンを指差しました。「行くぞ!」。キャサリンはパジャマを脱いで、12番のユニフォーム姿になりました。「俊輔に代えて、キャサリン!」と、コールされ、スタジアムは歓声に包まれました。

 「ねえ。キャサリンさんって、サッカーできるの?」と、「空飛ぶコーギー」のマロンが聞きました。「そんなことを言っている場合じゃあないの。この試合は、絶対に勝たなくっちゃ。マロン。あなたもアップしておいた方がいいわよ」と、キャサリンが言いました。「僕も?何のこと?」。

 キャサリン!チャッチャッチャ♪キャサリンは、とうとうW杯のピッチに立ちました。小笠原と何か話をしています。どうやら、キャサリンが蹴りそうです。キャサリンは抱えていたボールをピッチにおろしました。「いいわね。私が蹴ったら、必ずゴールネットを揺らすのよ!」と、キャサリンがボールに向かって強い調子でささやきました。ボールは小さくうなずいたように見えました。ブラジルの黄色い壁が、ゴールとの間に高くそびえました。「キャサリン。狙え!」と、ヒデが言いました。「こぼれたボールは、俺が決める」と大黒も身構えました。中澤も黄色い壁の横に立ちました。「キャサリンさ~ん!」と、ボールも大きな声を張り上げました。主審の笛が吹かれ、キャサリンが助走を開始します。

 ところが、「わあ。キャサリンさん、フラフラしてる」と、ボールは思わず目をつぶりたくなくなりました。キャサリンの足はもつれ、ボールの前でよろめきました。蹴ろうとした右足は大きく空振りして、倒れた勢いで、左のつま先がわずかにボールを転がしました。ボールはコロっと動いて考えました。「どうしよう?ゴールネットはあんなにも遠いのに…」。稲本が天を仰ぎました。巻も頭を抱えました。ブラジルの黄色い壁が一斉にボールに駆け寄りました。

 その時、フワッと動いたボールが、まるで魔法でもかけられたように宙に舞い上がりました。黄色い壁が空を見上げました。審判も笛をくわえてボールを見上げました。ボールは高く高く空を駆け上がり、キャサリンを見下ろしました。キャサリンはピッチに倒れたままゴールを指差し、「早く行って!」と、言っているようでした。ボールはキャサリンを振り返り振り返りしながら、ゴールに向かいました。黄色い壁のはるか上空を越えました。

 ゴールの前には、ブラジルのGKが立ちはだかっています。ボールは「上から行こうか。下から狙おうか」と、腕組みをして考えました。「ねえ?キャサリンさん。どっちから行けばいいの?」と、ボールが聞きました。「何言っているの?どっちでもいいわよ。さっさと行って!前からでも、後からでも…」。「後から?でも、まあ、いいや。ロナウジーニョの方から回ろうっと」と、ボールがフワリフワリと動きました。ロナウジーニョが胸でトラップしました。前に落としたボールを軽く蹴ってクリアしようとしたのですが、ボールが素早く逃げました。「わぁ!蹴られたら、死んじゃう」。ボールは、足元をコロコロと転がり、ロナウジーニョはボールを追い駆けてクルクルと回りました。ボールは必死で逃げて、ゴールに向かいました。

 「早く、行きなさい!」と、キャサリンが叫びました。それを聞いたボールは、急にスピードを上げて、一つ二つと弾んで三つ目でゴールラインを割りました。「ゴール!」。

 ピー!主審の笛が高らかに吹かれました。スタジアムは大歓声に包まれました。キャサリン!チャッチャッチャ♪ヒデが大黒が中澤が小笠原が巻が…、キャサリンに駆け寄りました。ベンチではジーコが両手を挙げて万歳をしています。ボールはピョンピョンと何度もネットを揺らしました。ガウガウと吠えて、キャサリンに駆け寄りました。ガウガウ?それにしても、ちょっと変なボールです。ガウガウ吠えてパタパタ走っています。ガウガウ?主審が胸の赤いカードに手をかけました。ピー!

 と、ここでマロンの目が覚めました。「マロン。起きてよ!」と、ポメラニアンのポテトが耳元で笛を吹いていました。「何だ?ポテチか…」と、マロンが大きなあくびをしました。「せっかく、いいところだったのに…」。「マロン。起きなさい!」と、魔女のキャサリンが古い箒にまたがってやってきました。「あーあ。キャサリンさん、今日もまたパジャマのままだ…」。

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